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福岡高等裁判所 昭和52年(行コ)18号 判決 1980年10月22日

控訴人(原告) 北九州市

被控訴人(被告) 福岡県地方労働委員会

参加人 北九州市交通局労働組合

主文

原判決を取消す。

被控訴人が、福岡労委昭和四二年(不)第二六号不当労働行為救済申立事件について、同四七年四月二六日付でした「北九州市交通事業管理者交通局長芳賀茂之は、同四二年八月二日付で行つた中島定樹、菅坂弘之、別城登に対する停職六か月、矢野満敏、山田加寿彦、小林博司、山田洸義、脇岩男に対する停職三か月、丸山靖雄、田中康信、川原憲治、山本和夫に対する停職一か月、末次五郎に対する戒告の各懲戒処分を取消し、同人らに対する賃金及び処遇面において、上記の懲戒処分がなかつたのと同様の状態に回復しなければならない。」旨の命令を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人及び参加人らの負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

1  控訴人

主文同旨。

2  被控訴人及び参加人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者の主張及び証拠関係

次に付加するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。(以下証拠関係につき省略)

理由

一  原判決の理由一ないし四の認定判断は、次に付加し、改めるほか、当裁判所の認定判断と同一であるから、これを引用する。

1  原判決五一枚目表五行目の「同第三号証の一、二」の次に「当審における証人山田洸義、同松田博文の各証言、同松田博文の証言により真正に成立したと認められる甲第二二号証」を、同五六枚目裏四行目の「議案書にも」の次に「議案件名として」を各加える。

2  同五八枚目裏四行目の「乙第二六号証の一、六」を「乙第二六号証の一ないし一五」と、同七行目の「参加人」を「参加人及びその組合員である原告の職員」と、同裏末行以下同五九枚目表四行目までを「参加人は、原告側の対応とにらみ合せて実力行使の具体的戦術を定めることとし、同日以降同年七月二日頃までの間、訴外中島ほか一二名らの組合役員をもつて構成する戦術委員会をしばしば開催し、同戦術委員会において、同月二一日から二三日まで(第一波)超過勤務拒否、同月二七日から同年七月一日まで(第二波)超過勤務拒否及び完全点検闘争、同月三日(第三波)超過勤務拒否及び一斉休暇闘争を実施する旨の闘争計画を策定し、組合員をしてこれらの実力行使を行わせることを決定した。」と各改める。

3  同五九枚目表七行目の「順序は前後するが、」を「一方、」と改める。

4  同五九枚目裏一行目の末尾に「(第一波)」を、同三行目の「各供述、」の次に「同松田博文の証言により真正に成立したと認められる甲第六号証、」を各加え、同五行目以下同八行目の「本件交渉難航」までを「原告のバス運行ダイヤは、労使の委員によつて構成されるダイヤ編成審議会の審議を経て定められるが、本件当時の公示ダイヤは、参加人の同意のもとに一日九勤務が時間外勤務ダイヤとして編成されており、参加人との間に、三六協定を結んで時間外勤務、いわゆる超過勤務(以下「超過」という。)が実施され、交通局においては右超勤が恒常化し、超勤拒否があれば平常のダイヤ運行に支障を来たす状況にあつたこと、この状況のもとで参加人は、財政再建計画案に対する交渉の難航」と改め、同裏末行の「することとし、」の次に「当局からの交通事業の正常な運行のため同協定の締結、更新方の要望にかかわらず、これを拒否し、」を加える。

5  同六〇枚目表二行目「もつとも」以下同六行目まで及び同八行目を削除し、同一一行目の「勤務状態の下で」以下同末行までを「勤務状態の下で原告の交通事業が運営されていることを認めながら、参加人は、前記財政再建計画に関する参加人の要求を貫徹するための手段として超勤を拒否し、原告の業務の正常な運営を阻害することを狙つたものであることが明らかといわなければならない。」と改める。

6  同六〇枚目表末行と同裏一行目との間に「(イ)デイーラー整備員入構拒否」を加える。

7  同六〇枚目裏九行目の「ピケツテイグ」以下一〇行目までを「ピケツテイングして入構を阻止し、その結果デイーラー整備員の入構就労ができなかつたことが認められる。」と改め、同一一行目以下同六一枚目表六行目の「措信できない。」までを削除する。

8  同六一枚目表九行目の「証人松田博文」を「原審及び当審における証人松田博文」と改め、同裏一一行目の「田中康信」の次に「当審における証人川原憲治」を加え、同一一行目の「供述」を「各供述」と改める。

9  同六二枚目表五行目以下八行目冒頭の「こと」までを「は、局庁舎等に許可なくポスター、プラカード、ビラ等を掲示し貼付することは、庁舎管理規程により禁止されていることを知りながら、同年六月一一日頃から無断で本庁舎等に多数のビラを貼付し、当局の再三にわたる撤去命令にもかかわらずこれを撤去しなかつた。そこで、原告において外部から作業員を入れてこれを撤去しようとしたところ、参加人らにおいて、同撤去作業を妨害したこと、」と改める。

10  同六二枚目裏九行目の末尾に「(第二波)」を加え、同一一行目の「同第九号証」を「同第九号証及び同第一一号証」と、同末行の「証人松田博文」を「原審及び当審における証人松田博文」と各改め、同末行の「供述」の次に「、当審における証人松田博文の証言により真正に成立したと認められる甲第二三号証」を加え、同六三枚目表一行目の「この間」を「同年六月二七日から同年七月一日までの間、」と、同二行目冒頭の「検闘争として、」を「検闘争と称して、原告主張のように」と各改め、同八行目の「たわけではなく、」の次に「前記超勤拒否と同様参加人の要求貫徹のための手段としてされたものであつて、」を加え、同九行目の「そのように」以下同一〇行目までを削除する。

11  同六三枚目裏一行目の「(服務心」を「(前掲乙第二四号証の一ないし四―北九州市交通局自動車乗務員服務心」と改め、同三行目の「しかし、」の次に「前掲乙第一五号証、同第二四号証の一ないし四、同第二七号証の一によると、」を加え、同七行目の「四一条)。よつて、」を「四一条)から、」と、同八行目の「判断したが、」以下同一一行目までを「判断し、出庫を命じたものであることが認められる。」と各改める。

12  同六三枚目裏末行の冒頭に「前掲乙第一一号証(証人鶴丸正規証言部分)及び同第二七号証の一によると、」を、同六四枚目表三行目の「記載部分」の次に「、当審における証人脇岩男の供述部分」を各加える。

13  同六四枚目表五行目の末尾に「(第三波)」を加え、同一〇行目の「(証人植村耕治証言部分)」を「(証人植村耕治証言部分)号証、」と改め、同裏四行目の「同第三三号証」の次に「、当審における証人松田博文の供述及び同供述により真正に成立したと認められる甲第二四号証」を、同五行目の「参加人は、」の次に「同年七月三日原告主張のように」を各加える。

14  同六四枚目裏一二行目の「同日」を「同月一日」と、同末行目の「当日の争議」を「かねて計画のとおり、同月三日、一斉年次休暇闘争」と各改める。

15  同六六枚目表六行目の冒頭に「以上の事実が認められ、」を、同七行目の「(植村証言部分)」の次に「、同第一八」を、同八行目の「小林」の次に「、当審における証人矢野満敏」を各加え、同行目の「供述」を「各供述」と改める。

二  本件懲戒処分の発令について

地公労法第一一条一項は、「職員及び組合は、地方公営企業に対して同盟罷業、怠業その他の業務の正常な運営を阻害する一切の行為をすることができない。また、職員並びに組合の組合員及び役員は、このような禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおつてはならない」旨規定し、同法第一二条は、前条の規定に違反する行為をした者を解雇することができる旨規定する。そしてまた、地方公務員法第三二条は、職員に対し法令等や上司の職務上の命令に従う義務を課しており、同法第二九条一項は、同法に違反した職員につき免職その他の懲戒処分をすることができる旨規定しているところ、成立に争いのない乙第二、第三号証及び弁論の全趣旨によると、控訴人は、前記認定のように、参加人が第一波ないし第三波の実力行使としてした超勤拒否闘争、完全点検闘争、一斉休暇闘争につき、訴外中島が参加人の執行委員長としてこれを計画指導し、同山田(加)及び同矢野が副執行委員長、同小林は書記長、訴外山本を除くその余の訴外人ら八名はいずれも執行委員として、いずれも前記闘争行為の計画に関与した行為、更に、訴外中島の七月三日の折尾営業所における前記認定の行為(休暇闘争の煽動)、同矢野の前記認定の同日の若松渡し場案内所における管理職によるバス運行を阻止した行為、同山田(加)の同月一日の二島営業所における完全点検闘争を実行した行為、同小林の七月三日折尾営業所における休暇闘争煽動の各行為、同菅坂の前記認定の六月二一日小石営業所におけるデイーラー整備員の入構阻止、同月二七日及び七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日同営業所における行為(休暇闘争の煽動)、同月三日同営業所における渡辺運転手の振替勤務阻止の各行為、同別城の前記認定の六月二一日二島営業所におけるデイーラー整備員の入構阻止、七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日及び同月三日本庁舎、同営業所及び整理事業所における休暇闘争煽動の各行為、同脇の前記認定の六月二七日小石営業所における代替車のキーを取上げてその運行阻止、七月一日同営業所における完全点検闘争の実行、同月二日同営業所における行為(休暇闘争の煽動)、同月三日同営業所における渡辺運転手の振替勤務阻止の各行為、同山田(洸)の前記認定の七月一日同営業所における完全点検闘争の実行行為、同丸山の前記認定の六月二一日二島営業所におけるデイーラー整備員の入構阻止、同月二二日整備事務所におけるビラ撤去作業の妨害及びビラ貼付、七月三日整備事務所における休暇闘争煽動の各行為、同川原の前記認定の六月二二日折尾駅前案内所における高崎庶務課長に対するビラ撤去作業中止要求による同作業の妨害、同日折尾営業所における管理職によるバス運行の阻止、七月三日同営業所における休暇闘争煽動の各行為、同田中の前記認定の六月二一日折尾営業所におけるデイーラー整備員の入構阻止、同月二二日同営業所における管理職によるバス運行の阻止、同日折尾駅前案内所における高崎庶務課長に対するビラ撤去作業中止要求による同作業の妨害の各行為、同山本の前記認定の七月二日二島営業所における休暇闘争の煽動、七月三日整備事務所における休暇闘争の煽動及び石田整備課長の机のガラスを木製の名札で叩いて割つた行為は、いずれも地公労法第一一条一項、北九州市交通局就業規程第九〇条一一号の規定等に違反するものであるとして、地方公務員法第二九条一項一号及び三号に基づき、同四二年八月二日、右訴外人らを本件懲戒処分に付したものであることが認められる。

三  本件各闘争と地公労法第一一条一項該当性等について

1  先ず、参加人は、超勤拒否(三六協定締結ないし更新拒否)は、三六協定のない状態における超勤拒否であるから、違法視される理由はない旨主張する。

そこで、参加人の本件超勤拒否すなわち三六協定の締結ないし更新拒否が地公労法第一一条一項の争議行為になるか否かにつき考える。超過勤務に関する三六協定を締結するか否かは、原則として、労働組合ないし労働者の自由に属するところであるから、労働組合が超過勤務自体の労働条件に関する労使間の意見不一致のため、同協定の締結ないしは更新を拒否したとしても、これをもつて直ちに違法とすることはできないことはいうまでもないところである。しかし、労働組合が、当該事業の運営が超過勤務に依存すること、すなわち、超過勤務の正当性を是認しながら、超過勤務に関する労働条件そのものではなく、労使間の他の紛争についての自己の要求を貫徹する手段として三六協定の締結ないし更新を拒否し、超勤を拒否することは、争議行為(同盟罷業)に該当するものと解するのが相当であるところ、参加人が本件三六協定の締結ないし更新を拒否し、組合員の超勤を拒否させるに至つた経緯並びにその態様はさきに認定したとおりであつて、同事実からすると、控訴人の交通事業におけるバスの平常の運行ダイヤは、参加人も加わつたダイヤ編成審議会の審議を経て定められたものであり、一日九勤務が超勤ダイヤとして編成されていて超勤が恒常化され、超勤の拒否があれば平常のダイヤ運行に支障を来たす状況にあつたところ、参加人の前記三六協定の締結ないし更新拒否による超勤拒否闘争は、超勤の恒常化(正当性)を認めながら、控訴人の財政再建計画に関する参加人の要求を貫徹するための手段としていたものであり、かつ、控訴人の交通業務の正常な運営を阻害するためにしたものであつて、地公労法一一条一項の禁止する争議行為に該当するものといわざるをえない。

よつて、参加人の右主張は理由がない。

2  次に、参加人は、デイーラー整備員の入構阻止及び管理職による自動車の運行阻止は、いずれもスト破りに対するピケツテイングであつて、正当な組合活動である旨主張する。

しかし、ピケツテイングは、争議行為の実効性を確保するための手段として意義を有するものであつて、当該争議行為の適法性を前提とし、争議権保障の範囲内においてのみ許されるものであるところ、参加人に対しては後記のように地公労法第一一条一項により争議行為が禁止されているのである以上、ピケツテイングによる前記阻止行為はいずれも違法であつて、正当な組合活動ということはできない。

よつて、参加人の右主張は理由がない。

3  更に、参加人は、完全点検闘争は、北九州市交通局自動車乗務員服務心得第四一条による仕業点検として義務付けられた通り行つたに過ぎない旨主張する。

しかし、すでに認定したように、本件完全点検闘争は、単に交通安全の配慮から入念に仕業点検したということではなく、実質的には、参加人の要求を貫徹する手段として業務阻害を行おうとするものであつて、いずれも自動車の運行に差支えない整備状況であつたのに、上司の出庫命令に従わず、自動車の運行を阻止したことは、いずれも地公労法第一一条一項の業務の正常な運営を阻害する行為に該当するものというべきである。よつて、参加人の右主張も理由がない。

4  また、参加人は、年次休暇闘争は、法律によつて与えられた権利を行使したものであつて、争議行為ということはできない旨主張する。

年次休暇の権利は、労働基準法第三九条一、二項の要件を充足することによつて、法律上当然に労働者に生ずる権利であつて、年次休暇の利用目的は、労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、労働者の自由であり、本来使用者の干渉を許さないものである。しかし、いわゆる一斉休暇闘争は、労働者がその所属事業所において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、組合等の指令により全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱するものであつて、その実質は年次休暇に名をかりた同盟罷業にほかならない。したがつて、その形式いかんにかかわらず、本来の年次休暇権行使ではないのであるから、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえないものである(最高裁判所昭和四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。ところで、本件における休暇闘争は、さきに認定したように、参加人の指令に基づき、組合員である職員が全員一斉に休暇届を出すことによつて職場を離脱し、控訴人の業務の正常な運営の阻害を狙つたものであつて、一種の同盟罷業ということができ、地公労法第一一条一項により禁止された争議行為に該当するものというべきである。よつて、参加人の右主張は理由がない。

5  ところで、参加人は、地公労法第一一条一項の規定は、地方公営企業職員の争議行為を全面的一律に禁止したもので、勤労者の団体行動権を保障した憲法第二八条に違反し無効である旨主張する。

(一)  地公労法第一一条一項の規定は、その文理上、地方公営企業の職員及び組合に対し、同盟罷業その他一切の争議行為を禁止しているものということができる。

(二)  ところで、地方公営企業に勤務する職員も、憲法第二八条の勤務者として、同条の保障を受けるものというべきである。

しかし、地方公営企業の職員は地方公務員であるから、身分及び職務の性質・内容において非現業の地方公務員と多少異なるところはあつても、等しく公共的職務に従事する職員として、実質的に地方の住民全体に労務を提供する義務を負う点においては、両者の間に基本的な相違はなく、地方公営企業の職員が争議行為に及ぶことは右のような地位の特殊性と職務の公共性と相容れず、また、それによる業務の停廃が地方住民ないし国民全体の共同利益を害し、それら住民等の生活に重大な障害をもたらすおそれがあることは、非現業の地方公務員、国家公務員ないしは公労法の適用を受ける五現業、三公社等公共企業体の職員の場合と選ぶところはない。

そして、地方公営企業の職員は、非現業の他の地方公務員と同様、財政民主主義に表われている議会制民主主義の原則により、その給与その他の勤務条件が法律ないし地方議会の定める条例・予算の形で決定さるべき特殊な地位にあり、団体交渉権・労働協約締結権を保障する地公労法も条例・予算その他地方議会からの制約を認めている(地方公営企業法第四条、第二四条二項、第三八条四項、地公労法第八ないし第一〇条)。また、地方公営企業の事業は、利潤の追求を本来の目的としておらず、その労使関係には、私企業におけるような市場の抑制力が働かないため、ここでは争議権は、適正な勤務条件を決定する機能を果すことはできず、かえつて議会における民主的な手続によつてなさるべき職員の勤務条件等の決定に対し不当な圧力となり、これをゆがめるおそれがある。したがつて、これら職員の地位の特殊性や職務の公共性からして、地方住民全体ないし国民全体の共同利益のため、法律がその争議権に制約を加えてもやむを得ないものといわなければならない。

そしてまた、地方公営企業の職員についても、憲法によつてその労働基本権が保障されている以上、この保障と住民ないし国民全体の共同利益の擁護との間に均衡が保たれるようすることは、憲法の趣意と解されるから、その労働基本権の一部である争議権を禁止するにあたつては、相応の代償措置が講じられなければならないところ、現行法制をみるに、同職員は、地方公務員として法律上その身分の保障を受け、給与については生計費、同一又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従業者の給与その他の事情を考慮して条例で定めなければならない(地方公労企業法第三八条三、四項)とされている。そして、特に地公労法は、当局と職員との間の紛争につき、労働委員会におけるあつせん、調停、仲裁の制度を設け、その第一六条一項本文において、「労働委員会の仲裁裁定に対しては、当事者は、双方とも最終的決定としてこれに服従しなければならず、また、地方公共団体の長は、当該仲裁裁定が実施されるように、できるだけ努力しなければならない。」と定め、さらにまた、同項但し書は、当該地方公営企業の予算上又は資金上、不可能な資金の支出を内容とする仲裁裁定については、第一〇条を準用して、それを地方公共団体の議会に付議して、同議会の最終的決定に委ねることにしているのである。これらは、職員ないし組合に労働協約締結権を含む団体交渉権を付与しながら、争議権を否定する場合の代償措置として、よく整備されたものということができ、右職員の生存権擁護のための配慮に欠けるところはないものというべきである。

以上により、地公労法第一一条一項による争議行為の禁止は憲法第二八条に違反するものではないと解する(最高裁判所昭和四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁、同昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一七八頁、同昭和五二年五月四日大法廷判決・刑集三一巻三号一八二頁参照)。

よつて、参加人の前記主張は理由がない。

四  結論

以上のとおり、地公労法第一一条一項は、地方公営企業の職員及び組合の一切の争議行為を禁止し、また、職員並びに組合の組合員及び役員は右禁止された行為を共謀し、そそのかし、又はあおつてはならない旨規定しているのであるから、右職員及び組合役員が右法令の禁止に違反して争議行為を行い、あるいは右争議行為を共謀し、そそのかし、又はあおつた場合には、法令遵守義務を定めた地方公務員法第三二条に違反したものとして、同法第二九条一項一号及び三号に該当し、懲戒処分の対象とされることを免れないと解すべきである。そして、この場合に、地公労法第四条が労働組合法第七条一号本文の適用を除外していないことを根拠として、地公労法第一一条一項違反の争議行為のうちにもなお、労働組合法第七条一号本文の「正当な行為」にあたるものと然らざるものがあるとし、右「正当な行為」に当る争議行為については、地方公務員法第二九条一項一号による懲戒処分をすることができないというような解釈は、これを採用することができない。けだし、地公労法第四条によれば、地方公営企業の職員に関する労働関係については、地公労法の定めるところにより、同法に定めのないものについてのみ労働組合法の定めるところによるべきものであるとされているところ、右職員の争議行為については、地公労法第一一条一項において一切の争議行為を禁止する旨定めているので、その争議行為につき更に労働組合法第七条一号本文を適用すべき余地はないからである。地公労法第四条が労働組合法の右規定の適用を除外していないのは、争議行為以外の職員の組合活動については地公労法に定めがないので、これに労働組合法の同規定を適用して、その正当なものに対する不利益な取扱いを禁止するためであつて、地公労法違反の争議行為についてまで「正当な行為」なるものを認める意味をもつものではない。また、労働者の争議行為は集団的行動であるが、その集団性の故に参加人個人の行為としての面が失われるものでないから、違法争議行為に参加した個人の責を免れ得ないことはいうまでもないところである(最高裁判所昭和五三年七月一八日第三小法廷判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)。

これを本件についてみるに、さきに認定したところからすると、参加人がした前記認定の第一波ないし第三波の超勤拒否闘争、完全点検闘争、一斉休暇闘争は、いずれも地公労法第一一条一項の争議行為に該当するものというべく、訴外中島はその執行委員長としてこれを計画指導し、同山田(加)及び同矢野はその副委員長、同小林はその書記長、訴外山本を除くその余の訴外人八名はいずれもその執行委員として、戦術会議において前記争議行為を計画し、組合員をして同争議行為を行わせたものであること、更にまた、訴外中島が七月三日折尾営業所で、多数の組合員と共に、松山営業所長らに対し組合員の休暇承認を激しく要求したこと(休暇闘争のあおり行為といえる。)、同矢野が同日、若松渡し場で管理職によるバスの運行を阻止したこと、同山田(加)が同月一日、二島営業所で点検闘争を実行し、志水営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させたこと、同小林が、六月二二日、整備事務所で当局のビラ撤去作業を妨害し、七月三日、折尾営業所で前記中島らと共に中島と同様の休暇闘争のあおり行為をしたこと、同菅坂が、六月二一日、小石営業所でデイーラー整備員の入構を阻止し、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、鶴丸営業所長の命令を拒否してバスの運行を阻止し、同月二日、同営業所で多数の組合員と共に鶴丸営業所長らを取囲み、長時間にわたり、組合員の休暇承認を激しく要求し(休暇闘争のあおり行為といえる。)、同月三日、同営業所で渡辺運転手の振替勤務を阻止したこと、同別城が、六月二一日、二島営業所でピケを張り、デイーラー整備員の入構を阻止し、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、志水営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させ、同月二日及び三日、本庁舎・同営業所及び整備事務所で松田職員課長、志水営業所長、石田整備課長らに対し、多数の組合員と共に組合員の七月三日の休暇承認を激しく要求(休暇闘争のあおり行為といえる。)したこと、同脇が、六月二七日、小石営業所で志水営業所長が点検闘争に備え、代車にするつもりで二島営業所から運転してきた貸切用バスのキーを取上げ、七月一日、同営業所で完全点検闘争を実行し、鶴丸営業所長の命令を拒否してバスの運行を阻止し、同月二日、同営業所で前記菅坂らと共に同人と同様の休暇闘争のあおり行為をし、同月三日同営業所で渡辺運転手の振替勤務を阻止したこと、同山田(洸)が、六月二一日、二島営業所でデイーラー整備員の入構を阻止し、七月一日同営業所で完全点検闘争を実行し、志水営業所長の出庫命令を拒否してバスを欠行させたこと、同丸山が、六月二一日、二島営業所でピケを張り、デイーラー整備員の入構を阻止し、同月二二日整備事務所で当局のビラ撤去作業を妨害し、更に、同日、当局の制止をきかず同事務所の窓ガラスにビラ五、六〇枚を貼付し、七月三日、同事務所で前記別城らと共に別城同様休暇闘争のあおり行為をしたこと、同川原が、六月二二日、折尾駅前案内所で多数の組合員と共に、高崎庶務課長に対しビラ撤去作業の中止を激しく要求してビラ撤去作業を妨害し、同日、折尾営業所でピケを張り、松山営業所長の欠行ダイヤの代替運行を阻止し、七月三日、同営業所で前記中島、小林らと共に同人らと同様休暇闘争のあおり行為をしたこと、同田中が、六月二一日、同営業所でデイーラー整備員の入構を阻止し、同月二二日、同営業所でピケを張り、松山営業所長の欠行ダイヤの代替運行を阻止し、同日、折尾駅前案内所で多数の組合員と共に高崎庶務課長に対しビラ撤去作業の中止を激しく要求して、ビラ撤去作業を妨害したこと、同山本が、七月三日、整備事務所で前記別城、丸山らと共に、同人ら同様休暇闘争のあおり行為をし、その際、石田整備課長の机のガラスを木製の名札で叩いて割つたこと等、以上の訴外人らの各行為は、地公労法第一一条一項及び北九州市就業規則第九〇条一一号に違反し、また、地方公務員法第三二条にも違反するものであつて、同法第二九条一項一号及び三号の懲戒事由に該当するものといわなければならない。

よつて、控訴人が右条項を適用して、右訴外人らを懲戒に付した本件懲戒処分は相当であつて、訴外人に対する本件各懲戒処分が労働組合法第七条一号本文の不当労働行為に該当するいわれはないものといわなければならない。

五  そうすると、被控訴人が、控訴人の訴外人らに対する本件懲戒処分がいずれも同条同号の不当労働行為に該当するものとして発した本件救済命令は、いずれも違法といわなければならない。よつて、被控訴人が昭和四二年(不)第二六号不当労働行為救済申立事件につき、同四七年四月二六日付で発した本件救済命令の取消を求める控訴人の本訴請求は、正当として、これを認容すべきである。

六  してみると、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は失当であつて、控訴人の本件控訴は理由があるので原判決を取消し、控訴人の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九三条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤次郎 原政俊 寒竹剛)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  案

第一当事者の求めた裁判所

一 請求の趣旨

1 被告が、福岡労委昭和四二年(不)第二六号不当労働行為救済申立事件について、昭和四七年四月二六日付でなした「北九州市交通事業管理者交通局長芳賀茂之は、昭和四二年八月二日付行なつた中島定樹、菅坂弘之、別城登に対する停職六カ月、矢野満敏、山田加寿彦、小林博司、山田洸義、脇岩男に対する停職三カ月、丸山靖雄、田中康信、川原憲治、山本和夫に対する停職一カ月、末次五郎に対する戒告の各懲戒処分を取消し、同人らに対する賃金および処遇面において、上記の懲戒処分がなかつたのと同様の状態を回復しなければならない。」旨の命令を取消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一 請求原因

1 参加人は、不当労働行為に該当する行為(違法懲戒処分)があつたとして、昭和四二年九月八日、被告に対して訴外北九州市交通事業管理者交通局長芳賀茂之(当時)を被申立人とする救済の申立をなし(福岡労委昭和四二年(不)第二六号不当労働行為救済申立事件)、被告は、昭和四七年四月二六日付で、右被申立人にあて、前記請求の趣旨に記載の如き主文の命令を発し、この命令書は、同月二八日、右被申立人に交付された。

2 しかしながらこの命令は、以下述べる如き理由により、重大かつ明白な瑕疵があつて無効である。また、仮りにそうでないとしても事実誤認ないし法律判断を誤つた違法がある。

よつて、原告は、その取消しを求める。

3 被申立人適格なき者に対する命令

本件救済申立は、前記の如く訴外北九州市交通局長を被申立人として申立てられ、被告はこれに基き審理をしたうえ、同訴外人に対して救済命令を発した。

しかし、本件において使用者は原告であり、原告が被申立人適格を有するものであつて、訴外北九州市交通局長はこれを欠く。被告はその判断を誤つたもので、この命令は、重大かつ明白な瑕疵を有し、無効である。

4 仮りに、右主張が容れられないとしても、本件救済命令は事実関係を誤認し、法律上の判断を誤つた違法がある。

(一) 訴外北九州市交通局長は、原告が、地方公営企業法(以下地公企法という)の適用をうける地方公営企業として経営する自動車運送事業(交通事業という)の管理者(同法七条)である。

交通局は、同法第一四条により、交通事業管理者の権限に属する事務を処理させるため、原告が設置している。

訴外中島定樹、同矢野満敏、同小林博司、同菅坂弘之、同別城登、同脇岩男、同山田洸義、同田中康信、同川原憲治は旅客自動車運転者、訴外山田加寿彦、同末次五郎は一般事務員、訴外丸山靖雄は旅客自動車整備士、訴外山本和夫は自動車車掌として、それぞれ原告に雇傭され、北九州市交通局に勤務していた一般職に属する地方公務員である。

右中島ほか一二名の訴外人ら(以下一括表示するときは訴外中島ほか一二名という)を含む交通局職員は参加人北九州市交通局労働組合(以下北九交通労組ともいう)を組織し、訴外中島は執行委員長、訴外小林は書記長、訴外矢野、同山田(加)は副執行委員長、訴外山本は中央委員、その余の八名の右訴外人らは執行委員であつた。

訴外中島ほか一二名は、前記の通り北九交通労組の役員であるが、北九交通労組は昭和四二年六月二一日頃から同年七月三日頃までの間、交通局の業務の正常な運営を著しく阻害する争議行為を行い、右訴外人らは、それぞれこれに関与した。

よつて、訴外中島ほか一二名の任命権者である同交通局長芳賀茂之は、同年八月二日、右訴外人らに対して請求の趣旨記載の如き懲戒処分を行なつた次第である。

(二) 本件争議行為等に至る経過

(1) 原審は、昭和三八年二月一〇日、門司、小倉、八幡、若松、戸畑の五市が合併して誕生した。そうして原告は、旧若松市が経営していた交通事業を承継し、その主体をなす自動車運送事業は、若松区を主体に、周辺各区、及び水巻、芦屋の各町の一部を営業範囲として当該地区住民の足としての役割を果している。

ところが、石炭産業の衰退、マイカーの増加、その他各種の社会的外部要因に加え、適正運賃への改定遅延、人件費の増大、支払利子の増加等の内部要因により、原告の交通事業は、すでに旧若松市当時である昭和三五年頃から経営状態が悪化(赤字の発生)していた。そうして、昭和三八年度には四億六、七〇〇万円余の累積赤字を示すに至つた。

(2) 原告は、このままでは企業の存続が不可能となるので、昭和三八年九月、財団法人生産性九州地方本部の企業診断をうけ、その結果を参考として、昭和三九年度には一三項目からなる再建計画を策定した。その骨子は、路線延長、運賃改定、経営の効率化、経費節減等であつたが、更に翌四〇年度には民間の学識経験者等による交通事業審議会を設置し、その答申を得て、実現可能なものから実現にうつす経営合理化の努力を重ねた。

(3) その結果、単年度赤字の若干の減少をみたものの、企業要建の期待はとうてい持てず、累積赤字は遂次増大して、昭和四〇年度末は八億八、四二九万円、昭和四一年度末は一〇億四、三〇四万円と単年度の予算総額にも匹敵する額に達した。また毎年の賃上げによる人件費の増加は、特に経営を圧迫して、人件費は昭和四一年度において運送収益の八五%に相当する額となつた。

(4) 地方公営企業は、地公企法第三条に経営の基本原則が示され「常に企業の経済性を発揮するとともに、その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなければならない」。しかし、前述の如く原告の努力にもかかわらず、自主再建の見通しはつかなかつた。

もつとも、これはひとり原告の交通事業のみならず、全国公営交通事業の経営状況は大なり小なり悪化していたのである。

かかる情勢に対し国は、同法を昭和四一年七月に改正して「第七章財政の再建」の規定を設けた。

この規定に基く再建を行うときは、不良債務相当額の財政再建債を発行して一時的に資金不足を解消でき、財政再建債は再建計画期間内に分割返済する必要があるが、年三分五厘を超える利子部分は国の補助をうけることができる。

そのほか、その財政再建計画の内容と法の趣旨に則り、市の一般会計からの補助をうけることもでき、市議会の積極的な援助の見通しもあつたのである。

そこで原告は、前述の如き交通事業の現状にかんがみ、この法による財政再建以外に、交通事業再建の途はないと判断した。そこで原告は、昭和四一年一二月同法第四三条一項に基く市議会の議決を経て、自治大臣にこの法に基く財政再建を行なうとすることを申出て、昭和四二年一月一日付をもつて、指定日の指定をうけた。

(5) 財政再建計画の概要

地公企法による財政再建は、自治大臣が指定する日の属する年度(本件では昭和四一年度がそれに当る)及びこれに続くおおむね七年度以内に不良債務を解消し、財政の健全性を回復するよう、財政再建の基本方針、各年度で解消する不良債務、不良債務を解消し財政の健全性を回復するための具体的措置、財政再建債の各年度ごとの償還額を財政再建計画で定めなければならない(同法第四三条二項)。

ここでいう不良債務とは、同法第四三条一項でいうそれであり、昭和四〇年度末の原告の交通事業の不良債務は七億九、五九五万円であつた。

そこで原告は、運賃改定(受益者負担)、市の一般会計からの繰入れ(全期間中に五億円)、国の財政再建債利子(年七・三%)中年三・八%の利子補助、経費節減の企業努力を四本の柱として計画案を作成した。

前記の経費節減に関する主要事項は、乗合自動車のワンマン化(車掌一二〇名程度の削減)、運賃精算方式の改善(整理券方式採用)、業務の委託化による非乗務員二一名の配置転換、適正な給与体系の確立(行政職給料表一本の適用を改め、企業職給料表第一、第二表に改定)、軌道事業の民間委託等である。

(6) そうして原告は、当初一二年計画案を作成したが、計画の承認を求めるため自治省と事前協議を行う過程で、地公企法の「指定日の属する年度及びこれに続くおおむね七年度以内」(同法第四三条二項)の趣旨にそつた九年計画とすることを求められた。

原告は、財政再建計画期間の短縮は、毎年度の不良債務解消額が変つてくるなど、計画内容に若干の変更は生ずるが、再建が早く終了する利点もあるので、自治省の指示通り九年計画とすることに踏み切つた。

(7) 労使協議の経過

地公企法第七章による財政再建(以下法再建という)が、職員の労働条件変更等を伴う事項を含むので、原告はできるだけ、労働組合との意見一致をみて再建計画を行いたいと配慮し、昭和四二年二月二五日付で、参加人北九州交通労組と事前協議制に関する協定を締結し確認書を交換した。

協定は、労使間において職員の労働条件について事前に協議することにより民主的平和的な解決を計ることを目的とし(第一条)、事前協議機関として交通事業改善委員会を設置し(第二条)、同委員会において意見の一致をみるに至らなかつた事項はあらためて団体交渉の対象とし、双方最大限の努力をして円満解決を計る(第四条二項)というものであつた。

確認書は、右協定第四条二項の解釈につき、当局は労使が合意に達しない限り再建計画に関連して提案された合理化事項を一方的に強行実施せず、組合は審議拒否しないことを確認したものである。

原告は、直ちに交通事業改善委員会を設置し、昭和四二年二月二七日第一回委員会を開いた。

ところが参加人は、その審議において、再建計画中最大の柱である運賃改定と給与体系の改正について絶対反対の意思を表明した。

原告は、再建計画の提示後右事前協議協定締結の前から一八回の団体交渉、五回の三役交渉及び事務折衝を行い、十分に誠意をつくして事情を説明し、更に協定後は一二回の事業改善委員会開催その他誠意をもつて組合と協議を続けた。

しかし、参加人は、再建計画への協力の約束(参加人は事前協議協定を締結し昭和四一年度ベースアツプ問題が解決すれば、再建に協力すると約束し、前者は前記の如く締結され、後者も昭和四二年三月一〇日解決されていた。)を守らず、更に、昭和四二年三月一一日に参加人は確認書をもつて同月三一日を目標に計画内容を煮つめ、市議会の議決が得られるようにするとした約束にも反して、再建計画に反対する態度に終始し、いたずらに協議を延引させた。

他方前述の如く、原告は、一二年計画を九年計画に短縮せざるを得なくなつて、その経緯を、昭和四二年四月一〇日、事業改善委員会で説明し、九年計画案をまとめて同年六月七日の同委員会に提示した。参加人は、原告が右計画変更にあたり、労働条件に影響を及ぼすことを最少限に止める努力をしたにもかかわらず、計画変更自体を攻撃し続けるので、原告はやむなく、同月一五日これを市議会に提出した。住民の信託をうけて地方公営企業を経営する原告として、企業の健全化をはかるのは、当然の責務であり、組合の協力が得られないからといつて企業の危機を放置するのはとうてい許されなかつたからである。

なお、地公企法による財政再建計画は、同年三月までに策定すべきであつたところ、組合との交渉難航により、同年五月の臨時市議会まで自治省に猶予して貫つていた。ところが、五月市議会に提出することもできなかつたので、六月市議会ではどうしても財政再建計画の議決を得て自治大臣の承認を得る必要があつた。

これに対して、参加人は、労使の事前協議制に関する協定違反と主張し、反対行動に突入した。原告は右協定の趣旨にそつて、市議会議決後も労使の協議を続けて意見の一致をみたものから実施したいと要請したのに、これも拒否された。

(三) 違法争議

参加人は、昭和四二年六月一一日頃から本庁舎及び整備工場にある整備課事務所に合理化反対等のビラを多数貼付し、更に同月一五日、戦術委員会で同月二一日ないし二三日の超過勤務拒否闘争、同月二七日ないし同年七月一日の超過勤務拒否闘争及び完全点検闘争、同月三日のストライキを決定し、当局の警告を無視してこれを実施した。その具体的事実関係は、以下述べるとおりである。

(四) 昭和四二年六月二一日から同月二三日までの間の状況

(1) 参加人は六月二一日から同月二三日までの三日間、第一波実力行使超過勤務拒否闘争と称し労働基準法第三六条の規定にもとづく協定(以下「三六協定」という。)の締結を拒否し、北九州市立養護学校スクールバスおよび福岡行き定期便を除く全ての部門で超過勤務を拒否し争議行為を行なつた。

北九州市交通局においては運行ダイヤの編成にあたつては事業管理者への諮問機関として労使双方の委員によつて構成されるダイヤ審議委員会の審議を経て定められていたが、本件紛争当時の公示ダイヤは参加人側の同意のもとに一日約九勤務の超過勤務ダイヤを組み入れており、超過勤務拒否が行なわれれば正常なダイヤ運行に支障をきたすことは労働組合も充分承知のうえでこれを争議行動の手段として行なつたのである。

(2) 六月二一日前述のとおり参加人が超過勤務を拒否したので整備関係の勤務時間外の整備作業が因難となり、当局としては何とかして業務の正常な運営を維持しようとして、いすず自動車、ニツサン自動車、ふそう自動車の各デイーラーに整備業務を依頼した。またこのことを参加人に申し入れたところ小林書記長は「デイーラー整備員の入構は認めない。あえて入構を強行するなら実力をもつて阻止せざるをえない。」と答え各営業所においてデイーラーの派遣した整備員の入構について次のとおり妨害した。

イ 二島営業所関係

同日午後三時三〇分頃当局の要請に応じてふそう自動車のデイーラー整備員二名が来たが、構門付近にて別城登、丸山靖雄両執行委員外組合員六~七名が整備員の車の前面にピケを張り横に長椅子を二脚並べ整備員の入構を阻止した。これに対し石田整備課長が両執行委員らに整備員の入構を妨害しないよう再三にわたり申入れたが聞き入れず結局整備員を入構させることができなかつた。

また同日午後四時頃日産自動車のデイーラー整備員が来たが構内付近で山田洸義、丸山靖雄両執行委員が直接整備員に「入構されては困る」などと云つて入構を阻止した。

ロ 折尾営業所関係

同日午後四時頃当局の要請に応じて、いすず自動車北九州支店のデイーラー整備員三名が整備作業を行なうべくやつてきたが、田中康信執行委員は「組合が承認していないのにデイーラー達を中に入れて作業させることはけしからん」「デイーラーの者をスト破りに入れることは不都合だ。絶対阻止する」などと抗議し、整備員が乗つてきた車が動くことができないように組合員と共に取巻き入構を阻止した。

ハ 小石営業所関係

同日午後四時三〇分頃、二島営業所で入構できなかつたふそう自動車のカーデイーラー整備員をつれて小石営業所に来た阿部管理係長に対し菅坂弘之執行委員外組合員一五~一六名が取巻き激しく抗議し、入構を阻止した。

(3) 六月二二日折尾営業所において二番勤務の運転手が出勤せず超過勤務拒否により代行者を充てることができなかつたことから松山営業所長が欠行ダイヤを代替乗務し一回目のダイヤを運行した後、二回目のダイヤを運行するため乗務しようとしたところ田中康信、川原憲治両執行委員が「管理職による運行は認めないことを組合の機関で決定している」と抗議し、松田職員課長が再三にわたり運行を阻止しないよう申し入れたがききいれず、やむなく松田職員課長は松山営業所長に乗務を命じ運行しようとしたが、組合員一〇数名がバスの前面にピケツトを張り運行を阻止した。

このため松田職員課長は運行を強行すれば怪我人が出る慮れがあるので運行を断念した。この結果二番勤務のその後のダイヤは欠行した。

(4) なお参加人は許可なく局庁舎等にポスター、プラカード類を掲示結着することは庁舎管理規程により禁止されていることを知りながら六月一一日頃から本庁舎の屋内外の窓、屋内の壁、廊下等および整備工場にある整備事務所の屋内外の窓や壁などに合理化反対に関するものあるいは職制を個人的に中傷もしくは攻撃するものなど多数のビラを貼付し当局の再三にわたる撤去要請、撤去命令にもかかわらずこれを無視し続けた。

このような事態に際して当局は撤去命令が実行されないので、ビラを貼付した参加人の手を借りずに庁舎管理規程第六条の規定によつて当局の費用で外部から作業員を雇い入れ、撤去作業を始めたのである。これに対し参加人は激しく抗議し作業を妨害し撤去作業を中止させるに至つたのである。

すなわち六月二二日午後一時頃から松本庶務係長が作業員と共に本庁舎のビラの撤去作業を始めたが、多数の組合員がおしかけて「何故剥ぐのか」等と云つて松本係長らに激しく抗議し、そのような状態に外部から雇い入れた作業員もおじけづいてしまい撤去作業を中止せざるを得なくなつた。

同日折尾駅前案内所に出向いていた撤去作業の責任者の高崎庶務課長に対し、田中康信、川原憲治両執行委員外組合員一〇数名が「何故ビラ撤去を指示したのか、中止させよ」などと云つてビラ撤去作業の中止をせまり激しく抗議した。

同日午後一時頃整備工場の整備事務所において石田整備課長が作業員に指示してビラの撤去作業を始めたが、小林博司書記長、丸山靖雄執行委員外組合員四名が来て作業員がビラを剥いでいるのを中止させ、石田整備課長に対し激しく抗議し、石田整備課長は「組合が庁舎管理規程に違反して無断で貼つたものだから撤去する。」と云つたが丸山らは激昂し大声で抗議を繰り返し、石田整備課長はやむなく撤去作業を断念した。

また当局がビラ撤去を中止した後の午後四時頃丸山靖雄執行委員ら組合員一四~一五名は整備課事務所に来て、石田整備課長が強く制止したにもかかわらず、同事務所の窓硝子に五〇~六〇枚のビラを貼付した。

(五) 昭和四二年六月二七日から七月一日までの間の状況

参加人は六月二七日から七月一日までの五日間第二波実力行使、超過勤務拒否、車両の完全点検闘争と称する争議行為を行なつた。

超過勤務拒否闘争は前述のとおりである。

完全点検闘争は次のような方法で行なわれた。

北九州市交通局においては出庫前三〇分間乗務員を始業点検に従事させることと定めており乗務員は同所定の始業点検表に従い車両を点検し、運行管理者に結果を報告し確認または指示を受けることが義務づけられている。

ところが右期間において参加人は完全点検闘争と称して運転手が行なう始業点検にことさら執行委員を加え運行にまつたく支障のないささいな欠陥をとりあげ完全に修理整備しなければ運行させないとしつように抗議し出庫を遅らせたりあるいは出庫を不能にしたりしたものである。

イ 二島営業所関係

七月一日午後五時三〇分頃から山田加寿彦副執行委員長、別城登、山田洸義両執行委員の三名が順次出庫する車両について各運転手と共に始業点検を行ない三~四台の車両(ツーマン用)についてパイロツトランプ(乗降扉のドアの開閉を示す)の点滅不良をみつけ、志水営業所長に対し修理しなければ出庫させないと云つてきた。志水営業所長は「パイロツトランプの点滅不良は何ら運行には差し支えない」と出庫を命じた。しかし上記三名の組合役員はあくまでこれを容れずその結果バス運行に欠行をもたらした。

ロ 小石営業所関係

六月二十七日午前五時すぎ志水営業所長が点検闘争に備えて代車にするつもりで二島営業所から貸切用バスを運転して小石営業所に赴き車を構内に入れたところ、脇岩男執行委員は車のキーを預つておく、代車には使わせない旨云つて車両のキーをはずして所持し続け、志水営業所長がキーの返還を求めたが拒絶した。

七月一日午前五時二〇分頃から午前八時頃までにかけ菅坂弘之、脇岩男両執行委員が順次出庫する車両について各運転手と共に始業点検を行ない四~五台の車両についてバツテリー液が不足しているから液を補給しなければ運行できないと鶴丸営業所長に対し云つて来た。鶴丸営業所長はバツテリー液は定期的に整備課の方で点検補充しており運行に支障のない旨云いわたしたが、菅坂弘之、脇岩男両名はバツテリー液の補充をしなければ運行させないなどと云つて運行阻止した。

(六) 昭和四二年七月三日の状況

参加人は財政再建計画案が市議会で議決される予定の七月三日に第三派の実力行使、休暇闘争、超過勤務拒否闘争と称して多数の組合員が一斉に休暇をとりダイヤの大幅な欠行を生じる争議行動を行なつた。

これに対し当局は業務阻害を目的とした休暇申請については承認しない方針を決定し、その申請を拒否したのであるが、参加人はその承認を強要し各営業所等において次のような紛争を生じさせた。

イ 小石営業所関係

七月二日午前九時半頃から営業所事務室において、菅坂弘之、脇岩男両執行委員外多数の組合員が鶴丸営業所長および大庭係長を取り囲み、七月三日の休暇承認を要求して激しく抗議を行なつた。午後一時頃まで「休暇を認めよ」「認められない」との応酬が続き、午後一時半ごろ高崎庶務課長が来所し同人と菅坂、脇ら組合員との間で同じようなやりとりが続いた。鶴丸営業所長らは「病気の者は病気休暇として認めるので医師の診断書を提出するよう」指示したが、菅坂、脇らは「診断書料がいる」「日曜日で診断書がとりにくい」などと云つて鶴丸営業所長らの指示を受け容れず、休暇申請をそのまま認めるよう要求した。

午後三時に至り鶴丸営業所長らは組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなく休暇を承認した。

七月二日午後二時すぎ、小石営業所において鶴丸営業所長は七月三日の同営業所のワンマン五番勤務の乗務員が欠員となることを知り、七月三日が休日の予定となつていた北九州市交通局新労働組合所属の渡辺運転手に休日振替による出勤を命じた。

七月三日四時四〇分頃菅坂弘之、脇岩男両執行委員ら組合員多数が鶴丸営業所長に対し「労働組合が超過勤務拒否闘争として三六協定の締結を拒否しているときであり、渡辺運転手の振替勤務を取り消すよう」要求して激しく抗議した。鶴丸営業所長らは「渡辺運転手の振替勤務は休日の振替えによるもので休日出勤でない。三六協定の有無にはかかわりない」旨反論したが組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなく渡辺運転手の振替勤務を取消した。

ロ 二島営業所関係

七月二日午前十時頃別城登執行委員外組合員二〇名が本庁舎二階事務室において松田職員課長、和泉自動車課長および志水営業所長に対し、七月三日の休暇を承認せよと激しくせまり、松田職員課長が「七月三日は労働組合が休暇闘争を予定しており、業務に支障をきたすので、当日の休暇は承認できない」と承認を拒否したのに対し激しく抗議を繰り返し、休暇承認を強要し、松田職員課長らはつるしあげの中で抗しきれずやむなく当日の休暇を承認した。

七月三日午前五時頃点呼場において、別城登執行委員外数名の組合員が当日の年次有給休暇の承認を激しく要求し、志水営業所長が「当日は労働組合の休暇闘争が予定されており、また超過勤務拒否闘争が行なわれているので、交替勤務者がいないので期日を変更するよう」と繰り返し述べ当日の休暇承認を拒否した。これに対し別城ら組合員は「病気の者はどうするか」と詰問し、和泉自動車課長が「病気の者は乗務させるわけにいかない」と答えると、すかさず別城は休暇申請の理由を病気のためと書き替えるよう組合員に指示し病気を理由にした申請書を一括して志水営業所長に提出した。志水営業所長は病気の者は医師の診断書を添えて病気休暇の申請をするように云つたが、組合員らは「早朝で医師は起床していない」「初診料等がいる」等といつて激しく抗議を続けこのため午前七時頃志水営業所長らは長時間の組合側の激しい抗議に抗しきれずやむなく当日の休暇を承認した。

ハ 折尾営業所関係

七月三日午前四時二〇分頃から中島定樹執行委員長、小林博司書記長、田中康信、川原憲治両執行委員外組合員多数が松山営業所長、松田職員課長に対し、当日の休暇承認を激しく要求し、松山営業所長が「当日の年次有給休暇は認められない」「病気の者は医師の診断書を付して病気休暇の手続をとるよう」申し渡した。これに対し組合側は「従来から病気理由の年次有給休暇を認めているではないか」「他の営業所では診断書がなくても年次有給休暇を認めているではないか」などと激しく抗議し、午前七時すぎ、松山営業所長らは長時間の激しい抗議に抗しきれずやむなく休暇を承認した。

ニ 整備課関係

七月三日午前四時三〇分頃から午前八時二〇分頃まで整備課事務所において別城登、丸山靖雄両執行委員、山本和夫中央委員外組合員多数が石田整備課長に対し、当日の休暇不承認について激しく抗議し、その際山本和夫中央委員は激昂し、石田整備課長の机の上にあつた木製の補職名札を手にして机の上を激しくたたき机上のガラスを破損した。

以上述べたとおり、それぞれの期間において労働組合の争議行動が行なわれた結果、次のとおりバス運行に欠行を生じた。

月 日

欠行回数

欠行率

六月二一日

七一、〇

八、〇四%

二二日

七五、五

八、五五

二三日

三七、〇

四、一九

二七日

七五、〇

八、四八

二八日

七六、〇

八、六〇

二九日

三四、五

三、九〇

三〇日

五八、五

六、六二

七月一日

五六、五

六、四〇

二日

一三、〇

一、四七

三日

三二五、〇

三六、七九

注 一日当り総回数八八三、五回

そこで、訴外北九州市交通局長は、以上の参加人及び訴外中島ほか一二名の行為が、同市交通事業の業務の正常な運営を阻害する行為であつて、地方公営企業労働関係法(以下地公労法という)第一一条一項に違反し、北九州市交通局就業規程第九〇条一一号(別紙の通り)、地方公務員法第二九条第一項第一、第三号に該当するので、前記の如き争議の計画、指導及び実行を行つた執行委員長もしくはその他の役員である前記訴外中島ほか一二名に対し、昭和四二年八月二日付をもつて、請求の趣旨第一項の如き懲戒処分を行つた。

なお、被告は、本件救済命令において、訴外山田洸義、同丸山靖男、同末次五郎が昭和四二年七月三日の争義(被告のいわゆる第三波で、被告は後記の如くこれを違法とした)に参画関与した事実が証明されていないというが、本件争議の具体的計画が執行委員会及び戦術委員会で決定され、実施されたのは明らかで、上記三名は執行委員として、または戦術委員会のメンバーとして、他の委員らと七月三日の違法争議の実行計画に関与し、指導的役割りをはたしたことは明らかである。

5 以上要するに、被告は、本件救済申立を審理し、命令を発するにあたり、被申立人適格を誤つた違法があるので、本命令は重大かつ明白な瑕疵を有し無効である。また、仮りにこの主張が認められないとしても、訴外中島ほか一二名に対する本件懲戒処分は適法に為されたものであるのに、その事実関係を誤認し、法律上の判断を誤つて救済命令を発した違法がある。よつて、その取消しを求める。

二 請求原因に対する答弁

(被告の答弁)

1 請求原因1は認める。

2 同2は争う。

3 同3も争う。訴外北九州市交通局長は、後記の如く地方公営企業の管理者で、地公企法第八、第九条で自己の名において職員の任免、懲戒、労働条件の決定、労働協約の締結等を行う権限を有し、企業に関しては原告を代表する。

本件懲戒処分もまた交通局長の名において行われたものである。不当労働行為救済申立の被申立人は、企業主体に限るわけではなく、原状回復に必要な行為を為し得る権限を有する者を含み、本件労使関係において原告の代表機関たる交通局長に対して発せられた救済命令はそのまま原告にも効力を有する。

4 同4も被告が本件救済命令を為すにあたり、事実関係を誤認し、法律上の判断を誤つた旨の主張を争う。

なお請求原因4のうち、訴外北九州市交通局長(当時芳賀茂之)が、原告主張の日付で訴外中島ほか一二名に対し、その主張の如き懲戒処分を行つたこと(但しその処分理由たる事実には、昭和四二年七月一九日の職員らの行為を含む)、右九州市交通局長は、原告主張の通り地公企法の適用をうける地方公営企業(交業事業)の管理者で、同交通局は原告が、同管理者の権限に属する事務を処理させるため、原告が設置しているものであること、訴外中島ほか一二名は、夫々原告に雇用され、その主張の如く右交通局に勤務している職員(一般職に属する地方公務員)であること、右の者らが北九交通労組の組合員であることは認める。

更に同4のうち、原告がその主張の如く北九州旧五市が合併して誕生したものであること、原告が計画した地公企法による財政再建計画に車掌一二〇名程度の職員、非乗務員二一名の配置転換が含まれていたこと、原告が北九交通労組との間にその主張の如き事前協議制に関する協定を締結し、かつその主張の如き確認書を取りかわしたこと、原告が交通局の財政再建に関する九年計画案をまとめて昭和四二年六月七日開催の事業改善委員会に提示すると共に、同月一五日、これを市議会に提案したこと、当時地公企法による財政再建計画策定期限が原告主張のとおり経過しており、自治省に猶予して貰つていた事情があつたこと、従つて原告としては同月市議会でその議決を得て、自治大臣の承認をとる必要があつたこと、これについて組合は事前協議制に関する協定違反を主張して来たこと、組合が原告主張の如く闘争方針を決定したこと、北九交通労組の行つた争議の事実関係が原告主張の4の(四)から(六)のニまでに記載のとおりであつたことは認める。

(参加人の答弁)

請求原因1、2については、被告の答弁に同じ。

同3は争う。

請求原因4については被告の請求原因に対する答弁(前記二の4)のうち、前、中段(「右の者らが北九州交通労組の組合員であることは認める。」まで)と同じであるほか、更に、

1 原告の交通事業が、昭和三五年頃から赤字に移行したこと、地公企法第三条に原告主張のとおりの規定があること、同法に基く再建を行うときは、原告が前記二の4の(二)の(4)で主張するような再建債の発行、利子補給の利点があること、昭和四〇年度末の原告の交通事業の不良債務が七億九、五九五万円であつたこと、原告が、前記二の4の(二)の(5)に記載の如き運賃改定、一般会計からの繰入れ、財政再建債の利子補給、経費節減等を骨子として計画案を作成したこと、原告は当初その主張の如く一二年計画を作成しながら九年計画に変更したことは、これを認める。

2 次に、原告主張の如く、原告は参加人とその主張の如き内容の事前協議協定を締結し、確認書をとりかわしたこと、及びこれに基き原告、参加人間に、協議が行われたことも認める。

但し原告は、一二年計画に基く協議が、一定の整理・集約段階に入つていたとき、政府・自治省の指示に盲従し、地方自治体の自治権を放棄し、労使の信頼関係を破壊して突如として九年計画への変更を参加人に通告した。そうして、以後右事前協議協定も、更にその間に行われた被告のあつせん勧告も無視して、市議会にその主張の如く九年計画に基く再建案を提出し、その承認を得た。

3 参加人が行つた争議行為については、その態様が原告主張の如きものであつたことは否認するが、超勤拒否、完全点検、一斉休暇等の闘争を行つたことは認める。

4 その余は争う。

原告が地公企法上の財政再建を行うべく、当初参加人に示した一二年計画(所謂第三次合理化案)は、その反労働者的、反市民的性格に対し既得労働条件の確保向上、市民利用者利益擁護の立場から反対した。しかし、財政再建関係では、事前協議制を活用し解決する方針をとつたのである。

そうして、交通事業改善委員会における協議の結果、参加人が譲歩できるものから実施し、譲歩できないものは更に話合いを継続して、前記事前協議協定と共にとりかわされた確認書の精神に則り処理してゆくことに労使は合意した。

しかるに原告は、昭和四二年四月八日に予定されていた右委員会を自治省から呼ばれていることを理由に延期した後、一三日にいたり計画期間短縮を発表し、同月一五日、一七日に交渉を行つたがその短縮に伴う手直しの内容を、案が作成されていないことを理由に明らかにせず、それ以上の交渉を拒否し、同年六月七日、八日における交通事業改善委員会の席上はじめて職務給採用、基準内賃金二五二〇円の廃止、二度にわたる運賃値上げ、路線三%切捨て等の「合理化案」を示した。そうしてこの内容が、地公労法第七条にいう団体交渉事項であつて、原告は単に前記の協定のみならず、同法第二条によつても徹底した団体交渉をつくす義務を負うのにこれを無視し、一〇数回も交渉していた一二年計画を、何ら組合と事前協議を行うことなく九年計画に変更して押しつけてきたのである。問題の本質は、この原告の背信行為にある。

そうして原告は、組合の申立により被告の為した事前協議協定書及びこれに関する確認書の尊重を求めるあつせんをも拒否してその「財政再建案」の一方的強行をはかつた。

よつて、参加人としては、財政再建計画議案の議決が予想される同年七月三日にあわせて、実力行使を行わざるを得なくなつたのである。

超勤拒否(三六協定締結拒否)について。

三六協定のない状態における超勤拒否が違法視される理由はない。しかも参加人は、養護学院のスクールバス、貸切等には超勤に応じていて、超勤拒否に基く欠行の真の原因は、相次ぐ合理化に伴う定員不足である。

デイラー阻止について。

本件における民間企業整備員導入は「スト破り」であり、ピケを張つて説得することは、正当な組合活動である。またそのピケ破りを組合が抗議し、入構取り止めを要求することも、正当な組合活動である。

松田職員課長の運転阻止について。

第一波(後記三の1参照)争議における折尾営業所における松田課長の運転阻止は、これがスト破りであること、同人が永年運転からはなれていたこと、以前死亡事故をおこしたことがあることにより安全確保のため、職務分掌規程及び労使間の確認により、その運転による運行を阻止しようとしたもので、これも正当な組合活動の一つである。

庁舎内のビラについて。

これは、原告が事前協議協定やその確認書を無視し、被告の前記勧告すらないがしろにするに及んで行つたもので、その原因は原告がつくつたものである。参加人は、ビラ撤去に抗議はしたが、その作業を実力で妨げる等の行為はしていない。

安全点検闘争について。

参加人は、北九州市交通局自動車乗務員服務心得第四一条による仕業点検を、自動車仕業点検表により義務づけられたとおり行つたにすぎない。

年次有給休暇闘争について。

この点について当局は具体的日時を指定しての時季変更権の行使をしていないから、七月三日の年休はいずれも有効に成立している。

渡辺運転手の振替勤務の「阻止」について。

七月三日、原告はこれまでやつたことのない労働者の「代出」(スキャツプ)を企て、公休である渡辺運転手に振替勤務を命じた。そこで組合はスキヤツプの中止と公休日を公休として渡辺運転手に与えることを当局に要求した。よつて、当局は組合の正当な要求に従い、渡辺運転手に対する代替乗務指示を撤回したにすぎない。

三 争議行為の評価に関する原告の主張

1 本件救済命令は、この点についていわゆる限定解釈論に立脚し、参加人の行つた争議を昭和四二年六月二一日ないし二三日の第一波、同月二七日ないし同年七月一日の第二波、同月三日の第三波に分けて、第一、二波は地方公営企業労働関係法第一一条第一項において禁止された争議行為に該当しない正当な組合活動であるとする。さらに第三波は違法な争議行為であるが、第一、二波も含めて本件懲戒処分の対象としている点をとらえて本件懲戒処分を不当労働行為であると断定し、救済命令を発している。そうしてその禁じられた争議行為に該当するか否かの基準は主として現実に生じた業務停廃の影響の度合いによつているのである。

2 そこでまず被告は懲戒処分の本質を理解していないといわなければならない。懲戒処分は、公務員の勤務について秩序を維持し、綱紀を粛正して公務員としての義務を全からしめる特別権力関係内部の行政監督作用であり(最高第二小法廷判決昭和三二年五月一〇日判決、集一一巻五号六九九頁)、懲戒処分を発動するか否か、いずれの処分をえらぶかは懲戒権者の裁量に任されている(もつともその処分が事実上の根拠に基かないか、社会通念上甚だしく妥当を欠き、懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものであるときは別である)。更にその懲戒に価するものであるか否か、いずれの処分を選ぶのが妥当かは、当該行為の違法性の軽重、本人の性格、平素の行状、他の職員に与える影響、本人及び他の職員への訓戒的効果等をしんしやくする必要があり、これらの点の判断は、庁内の事情に通ぎようし直接監督の衝に当るものの裁量に任すのでなければ、到底適切な結果を期待することはできない(最高第三小法廷昭和二九年七月三〇日判決集八巻七号一四六三頁)。

被告は本命令において第三波の闘争を違法争議行為と判断し、「懲戒の処分を免れること」ができないこと、及び中島定樹、矢野清敏、山田加寿彦、小林博司、菅坂弘之、別城登、脇岩男、田中康信、川原憲治の各訴外人がこれを企画・実施したことを認めているのであつて、前記の各最高裁判例の趣旨からすれば、すくなくとも右各訴外人らに対する懲戒処分の取消しを命ずるのは、明らかに失当である。

3 更に、被告の地公労法第一一条一項の解釈は、とうてい承服できない。

地方公営企業に勤務する一般職に属する地方公務員(以下企業職員という)は、同法により団結権、団体交渉権を有するが、同法一一条一項により争議行為が禁止されていることは、一般行政職員が地方公務員法第三七条一項で争議行為が禁止されていることと異るものではない。企業職員の団結権、団体交渉権は、地方公営企業の経済性を尊重し、その必要とする限度で認められるにすぎない。

普通地方公共団体が交通その他の企業を経営するのは、地方自治法第二条三項三号、五号による公共事務、固有事務である。そうして公営企業は、一般行政事務と異る企業性を有し、事業管理者が置かれて経済活動を行うが、企業自体が独自の人格を有するものではなく地方自治法、地方財政法の適用もうける。

即ち、地方公営企業は、「公共の福祉を増進」させることが「本来の目的」であり(地公企法第三条)、この点私企業とは異る。そうして地方公営企業は、住民の総意を代表する地方議会の議決に基き、普通地方公共団体が自らの手で住民の信託にこたえ経営し、住民の意思と住民の経済的負担によつて成り立つている。

4 そうして本件の交通をはじめ、地方自治法第二条三項が例示している普通地方自治体の行うべき公共事務は多種多様であるが、いずれも地方公共団体の住民がその地域住民全体の利益のため、必要を認めて地方公務員をその職務に従事させている。たまたまその中に民間で同種業務を営む企業があるからといつて、公共性が弱いなどとは決していえないのである。

地公労法第一一条一項は、叙上の如く企業職員も地方公務員として地方住民の信託により、全体の奉仕者として地方公共団体が経営する企業に関与するもので、その使用者(地方住民)に争議を行うのは、地方住民の信託にそむき、地方行政、企業経営活動を停滞せしめ、地方住民の生活に重大な障害をもたらし、公共の福祉に反する故に禁止している。

従つてその禁止をもつて憲法二八条に違反するとはいえない。

いわゆる全逓中郵事件(四一、一〇、二六)、都教組事件(四四、四、二)、全司法事件(四四、四、二)各最高裁大法廷判決さえ、公務員の争議を懲戒処分の対象となし得ることは当然の前提としているのである。

5 右各判決は、刑事事件判決であるが、特に後二者は、「違法性の強弱」という基準による過去に例のない限定解釈をしたため、実務界に大きな混乱をもたらした。

しかし、全農林警職法事件最高裁大法廷判決(四八、四、二五、判例時報六九九号二二頁)は、全司法事件判決の示した限定解釈を排斥し、混乱に終止符を打つた。

もともと前記各最高裁判例に示された限定解釈は、憲法制定当時における公務員の労働基本権制限に関する立法者の意思に違背し、国家公務員法、地方公務員法の各法条の文言を逸脱して実質的な立法を裁判所が行なうことになり、三権分立の原則を逸脱したものである。そこで前記全農林判決は、公務員の争議につき、正当な立法趣旨の尊重に立ちかえつたのである。

6 本件事案とこれら大法廷判決(中郵、都教組)との関係について次の点に留意する必要がある。

まず、これら大法廷判決は、共に公務員の争議行為が違法であることは当然認めた上で、組合幹部の特定の行為につき刑罰適用の可否を論じたものである。公務員の争議行為が違法であるかどうかということと、これらの行為を企て、そそのかし、あおつた組合幹部に刑事制裁が加えられるか否かということを混同してはならない。

次に本件は、刑事事件ではないから、「違法性」についても右の各大法廷判決とは異つた観点から判断がなされなければならない。懲戒処分は、公務員の勤務についての秩序を保持し、綱紀を粛正することを通じ、公務員としての義務を全からしめるために行う特別権力関係内部の行政監督作用である。刑事上の違法性がないから行政上の違法性がないという論理は成立しない(長期無断欠勤の例参照)。

次に、被告は実定法の解釈と立法論を混同している。解釈によつて、立法趣旨と異る結論を求めることはあり得るが、これが許されるのは、制定後の社会情勢の変化が著しく、立法趣旨にそつた解釈が現実に妥当しない場合である。しかし、本件においてはそのような情勢は全く生じていないのである。

7 憲法第二八条は、勤労者の労働三権を保障するが、その本質は、全農林判決のいうごとく、勤労者の経済的地位の向上という要請に基く手段的権利である。即ち経済的・社会的に劣位にある労働者に、契約自由の原則を回復させるため、団結を認めて使用者と対等の立場に立ち、団体交渉を通じて労働条件の維持・改善をはかることを得しめるための権利である。

その意味で、自由権的基本権、人格権的基本権と異り、後国家的、後市民的であり、それ自体社会的性質を有し、その反面、国家の規律を予想している。

更にいわゆる労働三権の中核は団体交渉権であり、争議権は団結権と共に、更に手段性を有する。

従つて、憲法上の労働基本権の保障をとらえて、団結の自由、団体行動の自由を、自由権的基本権の如く考え、これを労働基本権の基底において国家における労働基本権制限の理論的防波堤にしようとするのは誤りである。

8 全農林判決は、前記の如き労働基本権の手段性に基き、勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れないとし、このことは憲法第一三条の規定の趣旨に徴しても疑いがないと判示した。即ち、国民全体の共同利益を指して公共の福祉であるとした。

9 そうして公共の福祉の概念をどのように理解するにせよ、基本的人権相互間に衝突をきたした場合は、その制約を認めるわけであるから、労働基本権の制約について公共の福祉を援用するか、あるいは前記中郵判決、都教組判決の如くその用語を用いず「国民生活全体の利益の保障という見地からの制約という内在的制約」による制約を認めるかは、法的構成ないし法的説明の相違にすぎない。従つて全農林判決をもつて直ちに理論的後退というのは誤りであり、問題は、基本的人権の種類、性質に応じて制約の限界をどこにおくかである。

10 中郵判決は、労働基本権制限の合憲性判断の基準として、四つの条件をかかげたが、争議行為の禁止について他の手段、方法等による制約(禁止以外の)によつては国民生活に重大な障害をもたらすおそれを避け得ない場合に限つてこれが許容されるという原則(いわゆる「より制限的でない他の選択し得る手段」の基準)を採用したと、あるいはその原則の萠芽として認め得ると理解する傾向が生じた。

しかし、全農林判決は、法は労働基本権に対する制約、特に罰則を設けることを最少限度にとどめようとしている態度をとつていることを認めたが、限定解釈を排斥するにあたつて、公務員の職種、職務内容の公共性の程度によつて、国民全体の共同利益への障害の程度と関連して、争議行為の禁止ないし処罰が当を得ないものがあるとすれば、それらの行為に対する措置は、公務員たる地位を保有させることの可否と共に、立法機関において慎重に考慮すべき立法問題である(立法府の裁量の範囲内)とした。

従つて、前記のいわゆる四条件を右のような原則に理解することができるとしても、最高裁は全農林判決によつてその立場を捨てたのである。

11 そこで更に全農林判決の趣旨にそつて公務員の労働基本権制限につき論ずるに、公務員は、実質的には国民(住民)全体を使用者とし、労務提供の義務を負う。即ち、公務員は公共の利益のために勤務し、公務の円滑な運営のためには、その担当職務の別なく、その職場において職責を果すことを要求される。その公務員が争議行為に及ぶことはその地位の特殊性及び職務の公共性と相容れず、多かれすくなかれ公務の停廃をもたらし、その停廃は、勤労者を含めた国民(住民)全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、またはそのおそれがある。

従つて、公務員の地位の特殊性と職務の公共性にかんがみ、公務員の労働基本権に必要やむを得ない限度の制限を加えることは、十分に合理的な理由がある。

12 次に公務員は、私企業と異り給与財源は税収に負い、私企業労働者の利潤分配要求の如きものとは全く異る。その勤務条件は、全て政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮により適当に決定せらるべく、かつその決定は民主国家のルールに従い、立法府(国会又は地方議会)における論議の上為されなければならない。同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地はない。

13 また公務員の争議行為は、民間企業におけるが如き、競争の諸要因、その他市場における圧力によつてチエツクされることがない。そのため、ストライキによつて強い圧力を行使できる組合は過大な賃金や利益を獲得することもできようし、また多くの場合その害は使用者ではなく公衆に発生することになる。一兆円以上の異積赤字をかかえても潰れることのない国鉄が、順法闘争や短時間の時限ストによる経済的損失に脅威を感じないのは見易い道理であることを考えるべきである。

14 中郵判決は、その第四条件において、労働基本権を制限することがやむを得ない場合は、これに見合う代償措置を講すべきことを判示した。全農林判決も、公務員の争議行為の全面、一律禁止の合憲性の判断においてそれに見合う代償措置について詳論している。

もともと労働基本権が手段的な性格を持つことは、他の手段(代償措置)で、労働基本権保障の目的を達成し得るならば、これを制限することが可能であることを示している。

そうして、全農林判決は、法が公務員の身分、任免その他勤務条件を詳細に規定していること、人事院の設置、人事院の勧告義務、不利益処分に対する救済等の規定を設けていることをあげ、国家公務員法による争議禁止の合憲を判示した。このことは地方公務員についても妥当するものである(終戦後一時的に公務員に争議権が認められていたときは、勤務は無定量で、給与法定主義もとられていなかつたことを考えるべきである)。

15 地方公務員法第三〇条は「すべて職員は全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ職務の遂行に当つては全力を挙げてこれに専念しなければならない。」と定める。これは、地方公共団体に勤務する職員の真の使用者は当該地域住民であることから職員が当然に負う基本的義務である。

そこで地方公共団体の業務の停廃を招き、住民生活に支障を生ぜしめるおそれのある職員の争議を禁ずる地方公務員法第三七条、地公労法第一一条は、地方公共団体をして地方の行政を行わせ、地方の住民が地方公共団体の組織運営に参加することにより民主主義政治の維持発展を図ろうとする地方自治の本旨にかんがみ、むしろ公共の福祉に適合するといえるものであり、憲法違反とされるいわれはない(前記3、4参照)。

16 更に国又は地方公共団体は解散することができないのは勿論、公役務の提供をしない自由もなく、争議に対するロツクアウトもなし得ず、また使用者たる住民はその地位を離脱する自由もない。

従つて、前記の如く市場の原理による自制を期待し得ない公務員が争議を許される場合、団体交渉によつて私企業と同様の力の均衡による自由な取引は期待できない。

この点からみても、法による争議禁止は、必要最少限度の要請とみるべきである。

17 以上の如き争議禁止を別とすれば、地方公務員の団結権は勿論、登録された職員団体は当局と交渉することが認められている。企業職員、単純労務職員については労働組合法、地方公営企業労働関係法が適用されて団体交渉権が認められている。ただ、実質的な使用者であり、地方公務員が奉仕を義務づけられている住民全体の意思が議会における議決のかたちで表示されるので、団体交渉の結果締結された協約が条例等に抵触するときは、効力発生に制約をうける。その反面職員は、法定の勤務条件等を享受する。即ち、分限及び懲戒の基準(地方公務員法第二七条)、勤務条件の根本基準(同第二四条)、給与等の情勢適応の原則(同第一四条)、人事委員会(公平委員会)による勤務条件の研究、提出(同第八条一項二号)、勤務条件に関する措置要求(同第四六ないし第四八条)、不利益処分に対する不服申立て(同第三九条の二)、人事委員会による給料表に関する勧告等(同法第二六条)、及び企業職員、単純労務職員についての苦情処理共同調整会議等がそれである。

かくして、法は地方公務員の争議行為を禁止したが、警察及び消防職員を除き団結権は保障し、更に一部には団体交渉権も保障し、なお適切な代償措置を講じているのであつて、その禁止は憲法第二八条に違反するものではない。

18 以上述べた通り、いわゆる限定解釈論は、刑事事件としても全農林警職法判決によつて否定されたものであつて、その理由は、以上述べたほか同判決多数意見を援用する。

従つて、本件救済命令で被告が採用したいわゆる限定解釈論は失当であることが明らかである。

しかも被告は、同じ目的で行われた争議行為をことさら日時別に分離し、一日一日の業務阻害結果を個別にとらえて前記1の如き判断をしている。

しかし本件はそのいわゆる第一、二波の争議といえどもいずれも夫々数日間の継続をみているのであつて、その第三波とあわせて昭和四二年六月二一日から同年七月三日の間、継続した争議が行われたことによつて、まさに地域住民の生活に重大な障害をもたらしたのである。よつて、仮りに地公労法第一一条一項の解釈適用について、これを被告の如き立場をとるとしても(その不当性はすでに述べたが)、その被告の為した判断は著しく不当である。

19 更に被告は、前記の如きデイラー整備員の入構阻止、振替勤務妨害、管理職による運行妨害等を労務不提供ときりはなしてただ争議行為に伴つて生じた紛議と認定しているが、これらはいずれも原告の業務を積極的に妨害する行為であり、組合の企画する業務阻害の効果の実現を目差す行為であつて、争議行為そのものであり、本件争議が単に労務不提供にとどまらず、とうてい許容できない手段で行われたことを明らかにしている。

20 参加人らの順法闘争の法理について。

参加人は、本件の各実力行使は、超勤拒否、安全点検、年休請求といつたいわゆる順法闘争であるから、社会的事実としては争議行為であるとしても、法的に禁止された争議行為には当らない旨主張する。しかし本件の争議は、法令自体の順守を目的とするものではなく、前述の如き原告の財政再建計画反対という他の目的を達する手段として集団的に行われた自らの職場における業務の正常な運営の阻害である。

勿論、職務命令が客観的に違法である場合までも拒否できないとするものではないが本件においてはそのような事実はなかつた。

日常業務が強行法規に違反しているわけでもなく、労使合意の上で業務が正常に行われている場合、仮りにその過程に法規違反があつてもそれが単なる行政法規違反で、当事者間でも、社会一般においても、あえて違法認識を抱いていないような場合は、むしろ、日常の労働の提供方法自体が「業務の正常な運営」として尊重されるべきである。

そうして、具体的事実につき、労働者側と使用者側とでその判断、主張に対立がある場合は、公務部内ではいわゆる「有権解釈」(公権的解釈)に優越性を認めるのが形成された原則である。

三六協定の締結ないし更新拒否闘争について。

組合の意思に基き、個々の労働者の残業の合意を禁止し、組合の目的を達しようとするときは、業務の正常な運営を阻害しようとするものであり、また阻害のおそれが現存するのであるから、争議行為となる。特に、特定の事業場において、時間外又は休日の労働が行われることが常態であり、それによつてのみ当該事業場の業務運営が経常・普通の状態にあると客観的に判断し得る事情にあるときは、組合が協定更新を拒否する行為は争議行為にあたる。

安全点検闘争について。

参加人らは、労使紛争に関し要求貫徹手段として、自動車の運行を妨げる趣旨のもとに、平常時と異ることさら綿密な仕業点検をし、さまで実際の運行に支障なしと認められる微細な点についてまで逐一その点検を行つて、自動車の運行を妨げる目的を遂げたのであるから、争議行為にあたる。

年休闘争について。

この点に関する参加人らの主張は、労働基準法上の有給休暇が争議目的で行われることを予定せず、争議と有給休暇が本質的に相容れないことを考えていないもので、立論の前提において誤つている。即ち、組合の争議行為実行の手段として年休請求を行う場合、これを「個々の労働者の個人的行為に還元して」労基法上の時季変更権行使以外に使用者はこれを拒否できないとするのは明らかに誤りである。労働者が所属事業場で、その業務の正常な運営の阻害を目的として、休暇戦術を行い、職場を放棄離脱する場合は、その実質は年次休暇に名をかりた同盟罷業で、これに対する使用者の時季変更権は問題になる余地もないのである。即ち、実質が同罰罷業であれば形式の如何をとわず、年休権行使として取扱う必要はないのである。

以上の理由により、参加人のいう順法闘争は、全て争議行為であり地公労法第一一条一項に違反することは明らかである。

四 争議行為の評価に関する参加人の主張

1 官公労働者が憲法第二八条の勤労者に含まれることは争いのないところである。原告は、地公労法第一一条一項、北九州市交通局就業規程第九〇条一一号を根拠として、本件争議行為の違法をいうが、その実質上の根拠である地公労法第一一条一項は、地方公営企業職員の争議を全面的かつ一律に禁止したものであり、前記憲法第二八条に違反し無効である。よつて、本件争議行為は、労働組合の正当な行為である。

(一) 戦後、占領軍は、労働組合に、民主主義の復活強化の担い手としての性格も期待し、育成強化策をとり、昭和二一年三月一日施行の労働組合法は、警察、消防、監獄勤務の職員を除く全労働者に、団結権を認めた。

続いて、昭和二二年五月三日施行の憲法(第二八条)により、勤労者の労働基本権が保障されたが、その間の官公労組合運動の急速な発展に対する恐怖と、タフト・ハートレー法の影響下に、官公労働者に対する抑圧的要素を含む労働関係調整法の制定があつた。

(二) その後、国際状勢の変化による日本占領政策の転換があり、労働組合育成政策も後退をはじめ、昭和二三年八月七日の全官公労組を中心とするゼネスト決行を前に、いわゆるマツカーサー書簡が出されたことは、周知の事実である。

これをうけた日本国政府は、同年七月三一日官公労働者の争議行為を全面的に禁止し、その違反は刑罰による制裁を加えることを内容とするいわゆる政令二〇一号を公布し、更に同年一二月三日、国家公務員法を改正して政令二〇一号の法律化を行い、引続いて昭和二七年七月までの間に公共企業体等労働関係法、地方公務員法、地公労法を制定して国家・地方公務員の争議を全面一律に禁止する法体制を確立した。

その後、この体制(「全体の奉仕者」、「公共の福祉」論による公務員の争議行為全面一律禁止)は、多くの批判をうけながらも長期にわたつて維持されたが、原告も指摘するいわゆる全逓中郵判決、都教組判決によつて、実務上も変更されたかにみえた。

しかるに、原告の援用する全農林警職法判決によつて、この公務員の争議行為禁止法制が、いわゆる限定解釈によらなくても合憲である旨の確認が為されたことも周知の事実である。

(三) しかしながら、原告主張の地公労法第一一条一項合憲論は、憲法第二八条が団結権、団体交渉権、団体行動権の三権を具体的に明示して保障し、その三権は一体として法的価値をにない、夫々独自の機能を有しながらどの一つを欠いても他の権利が無意味となることをことさら無視している。

即ち争議権を伴わない団体交渉は、使用者に対する陳情と化し、労働基本権保障の意義は失われてしまう。

更に団体行動権(争議権)は団結強化の重要な役割を果たし、また団体交渉権なき団結権など真の意味の団結権ではあり得ない。

(四) 次に原告主張の労働基本権手段的権利説に基く公務員の争議全面一律禁止合憲論は、労働基本権が社会的に生存する具体的人間としての勤労者の生活実態を基礎とし歴史的社会的必然として生まれた権利であることを忘れている。

その認識があるならば、労働基本権に制限を加えることの妥当性が認められる場合であつても、直ちに全面一律禁止という方法によるべきか否かの検討、必要最少限制約の原則の具体的検討がなされていた筈である。

(五) 最少限制約の原則について

労働「基本権」の保障を公務員にも認めるというのであれば、必然的にその制約が、「基本権」の本質をそこなうことは許されない筈である。従つてその制約はそれに優越する法益をまもるための合理性ある必要最少限度のものでなければならない。

争議行為といつても、それに伴う他の権利・自由への侵害は千差万別であり、当然官公労働者の職務内容、争議行為の規模・態様によつて、一律に論ずることは不可能である。

一口に地方公営企業といつても、地方鉄道事業、自動車運送事業その他の法定七事業のほか、条例によつて地公企法、地公労法が適用される事業がある。また地方公務員法第五七条の単純労務職員も地公労法の適用をうける。

これらの企業に勤務する職員、及び「単純労務職員」は、全て争議行為を禁止されている。しかし、地方公営企業は、全てその業務が国民(住民)生活と密接に関連し、その業務停廃が国民(住民)の生命、健康にさし迫つた危険を与え、あるいはその生活に重大な障害を与えるから、公営企業にしてあるのではない。資金面、経営面からの要請等、別途の行政目的をもつてそのようにされているのであつて、地公労法がこれに留意せず、その適用下にある全職員につき争議行為を禁止したのは、全く合理性がない(自治体現業部門の下請化の傾向または都市交通における民営企業との競合、国際電信電話株式会社と電々公社の関係等参照)。

すでに労働関係調整法は運輸、電信、水道その他の公益事業(内閣総理大臣による事業の追加指定もできる)につき、一定の条件のもとに争議行為の制限、禁止制度を設けた。また電気事業、石炭鉱業についても争議行為規制の法制がある(昭二八、法一七一)。それらの具体的な当否は別として、地公労法第一一条一項が、これらの争議制限の法的技術にすらよることなく、いわゆる「より制限的でない他の選び得る手段」の原則に反してその適用下の職員につき、争議を全面一律に禁止したのは、当該職員に憲法第二八条の保障を拒否したことと同義であり、必要最少制限の原則に反する。

(六) 更に地方公営交通労働者の争議行為の場合、よつて住民がうける不利益は、日常生活上の便益の喪失以上のものではなく、生命・健康の侵害、あるいは生計維持を不能ならしめる打撃といつた性質のものではない。従つて日常生活上の便益を一時的に奪われた者が多数居たからといつて、それが争議を禁止し、制限するに足る侵すべからざる保護法益に格上げされるわけではない。

(七) ちなみに仮りに何らかの形で、争議権を法的に規制することが許されるとしても、その違反に対する制裁は必要最少限度のものであることを要する。特に争議を行つたこと自体に対する報復的制裁、争議に参加した各組合員個人に対する制裁は許されない。せいぜい組合に対する行政上の制裁に止めるべきである。

また、仮りに違法争議があつたとしても、争議は組合の組織の決定であり、組合員はその組織決定に従う義務がある。よつて、その義務を履行した組合員を制裁することは許されず、若し、これを認めるとすれば、使用者が負う団結権承認義務と矛盾する。

(八) 更に、経済的劣位に立つ労働者は、争議権を持つことによつて、使用者に対し実質的な自由と平等を確保できるのであるから、争議権はその生存のために必要不可欠な基本的権利である。その歴史的意義と社会的機能からみると、争議権は他の何物をもつても代替しえない権利である。

そこで、代償制度が完備されれば、争議権を奪つてよいという理由はなりたたない。代償制度はむしろそれがあるためではなく、他の合理的な理由に基いて、仮りに争議権を最少限度の範囲で制限する場合、その制限に見合う代償制度を完備する必要がある(それがなければ、その制限すら違憲となる)という意味で意義を持つだけである。

現行代償措置は、その限りでみてもなお完備とはいいえない。即ち代償措置のため設定された第三者機関は、労使の同意を得た公正中立な委員によつて構成されるべく、また労働者の意見を適格に反映するための構成がとられなければならない(労働者代表を構成員に加える)。次に、第三者機関の決定は、当局を拘束しなければならない。また第三者機関による調整不調のときは速かに争議ができることになつていなければならない。ところが現在このような法律上の保障はないのである。

(九) よつて、争議行為を全面、一律に禁止した地公労法第一一条一項の違憲性は明らかである。

2 いわゆる合憲解釈の不適切性

元来合憲解釈とは「法律の文言が二つの同じような明確な解釈を許す場合には、憲法の規定に明らかに合致する解釈がとられるべきである。」といわれているように「違憲と争われた法規につき広狭二義の解釈が法文上可能にみえ、広義の解釈をとると法が違憲となり、または違憲となる疑いが強い場合、憲法に照らし法解釈をし、憲法上問題のない狭義の解釈を導く」法解釈の態度である。

しかも法に二つの相反する解釈が可能であるとしてもその法の立法目的と明らかに背離する解釈をとることは許されない。

ところで地公労法第一一条一項は、文言上明らかに争議行為全面一律禁止の規定であり、又それ以外の解釈は不可能である。

またその沿革は前記1の(一)(二)に記載の如く当時の官公労働者の労働運動、政治活動を窒息させ、全体としての我国の労働運動を抑圧する目的のためのものであつた。そのため、公務員(公共企業体職員を含む)から全面一律に争議権を剥奪したのである。

従つて、いわゆる都教組事件等の合憲解釈は、明らかに合憲解釈の限界を逸脱している。

更に、地公労法第一一条一項は、限定的に解釈しようとしても禁止該当範囲外の争議行為にあたるか否かにつき客観的具体的基準を欠き、労使の間に収拾のつかない論議を呼び、長期のかつ多大の費用を要する裁判を経てしか結論がでない(法的安定性を欠く)。

よつて、いわゆる合憲解釈が行われるべきでないことは明らかであり、地公労法第一一条一項は違憲、無効とする以外の結論はない。

3 順法闘争について。

(一) 本件順法闘争は、「正当な集団行動」ないし「正当行為」であつて、争議行為としての評価はこれをすることができない。

官公労働者の労働関係も、対等当事者間の契約関係にすぎず、法律、命令、規則による職務を担当する義務を負わない。

(二) 本件順法闘争は、被告の認定によると第一波(時間外勤務拒否闘争)、第二波(同上及び安全点検闘争)、第三波(時間外勤務拒否、年休闘争)の形態をとつている。

ちなみに、原告は、このように分けて考えることの不当性をいうが、参加人は六月中旬、第一ないし第三波の一応の戦術決定を行つたが、実施については、各波ごとに当局の対応をみながらその都度戦術会議を開いて決定を行つた。

第三波まで実施せざるを得なかつたのは、当局が事前協議協定を誠実に履行する意思を示す態度を遂にみせなかつたからで、参加人は第一ないし第三波の争議をそれぞれ独立して行つたものである。

(三) 超勤拒否闘争について。

本件当時本件労使間に長期の三六協定は締結されていなかつた。一日一日の勤務ごとに、九勤務の超過勤務がくりかえし協定されていただけである。よつて、超勤拒否といつても、正確には三六協定の締結ないし更新拒否である。もともと三六協定を締結したこと自体で直ちに個々の労働者に時間外労働義務を生ずるものではないし、三六協定を結ぶか否かは明らかに、労働者の自由である。従つて、その拒否はそもそも労働契約の次元のものであり、争議行為であるか否かという問題以前のものである。

原告は三六協定締結拒否が争議目的に利用されることの不当をいうが、超勤を恒常的状態とし、業務の正常な運営状態とすることを法は予定したであろうか。

(四) 安全点検闘争について。

本件安全点検闘争は、「かねて運転手は出庫前仕業点検表に定められた二五項目の点検個所について、車輛を点検し、管理者に異状の有無を報告し、その確認又は指示を受けることが義務づけられていた」(本件救済命令の認定)のであつて、この義務は労働契約の内容に関係し、参加人組合員は、右契約内容を履行したにすぎない(最高裁四三、一二、二四、千代田丸事件判決参照)。

よつて、本件安全点検闘争を争議行為とみることは許されない。

(五) 年休闘争について。

年休権を持つ労働者がその休暇日数の範囲内で休暇の時季指定をしたときは、適法な時季変更権の行使なき限り年休がその指定された日に成立する。

もつとも一斉休暇闘争における年休権の行使は、労働者の所属事業場の業務の正常な運営の阻害を目的とする同盟罷業とする説があるが、仮りにそれが同盟罷業的性格を持つにせよ、労働基準法第三九条を、目的によつて年休に制約を設けたと解釈する根拠はない。

従つて、使用者は、同法第三九条但書の要件に基く時季変更権の行使をする以外に、その年休を制約する方法はない。

そうして本件では、当局による時季変更権行使はなされていないのであるから年休は適法に取得、行使された。

よつて、これを争議行為ということはできない。

(六) なお、以上の全体を通じて、社会的事実としての争議行為(それがあるいは労働関係調整法上の争議行為となるとしても)と、公務員労働関係法令上の禁止された争議行為とは全く別に考える必要がある。本来労働者の自由に委ねられ、あるいは労働契約関係上の職務を履行するにすぎない行為が、労使間に不一致がありそこに事実上の紛争状態があることをもつて、直ちに禁止された「争議行為」とみるのは早計である。

第三証拠<省略>

理由

一 請求原因事実1は当事者間に争いがない。

二 本件救済申立の被申立人適格を争う原告の主張について

不当労働行為救済命令は、当事者間に権利・義務の存否を確定するものではなく、不当労働行為の主体に一定の作為、不作為を命ずるものである故に、労働(雇傭)契約関係の主体のほか、事業所の代表者で救済命令を履行し得る立場にある者も被申立人となり得る。

訴外北九州市交通局長(芳賀茂之)は、原告が地公企法の適用をうける地方公営企業として経営する交通事業の管理者(同法七条)であること、訴外中島ほか一二名が原告に雇傭され、原告が右管理者の権限に属する事務を処理するため設置している交通局に勤務している一般職に属する地方公務員であり、参加人の組合員であること、右管理者が昭和四二年八月二日、右訴外人らに対して請求の趣旨の如き懲戒処分を行つたことは当事者間に争いがなく、本件救済申立はその懲戒処分が不当労働行為に該当するという主張に基くものである。

してみると、右市交通局長は、当該懲戒処分をその名において為した者であり、かつ同人は、地公企法第八条、第九条に基き、職員の任免、懲戒その他その地方公営企業の業務を執行し、それに関して原告を代表するものであるから、本件懲戒処分の取消その他原状回復に必要な行為を為す権限も有する。

よつて、右交通局長は、本件救済申立の被申立人適格を有し、この点に関する原告の主張は理由がない。

三 原告の交通事業の財政再建計画について

成立に争いなき甲第一、丙第四号証、乙第七号証、同第二〇ないし第二二号証、同第二六号証の一ないし一三、証人松田博文の供述の一部、この供述により成立を認める甲第二号証、同第三号証の一、二、同第四、第五、第一〇、第一一号証、証人小林博司の供述の一部、この供述により成立を認める丙第一、第二号証、同第三号証の一、二、弁論の全趣旨及びこれにより成立を認める甲第一四、第一九号証をあわせると、以下の事実が認められる。

1 原告は、昭和三八年二月一〇日、旧北九州五市合併により成立し、旧若松市の交通事業も承継した。その主体を成す自動車運送事業(バス)は、若松区全域、戸畑、八幡各区の各一部、遠賀郡水巻町、芦屋町の各一部を営業区域として、昭和四二年当時バス保有台数約一五〇輛、職員数約六〇〇名、一日の利用客は平均して約八万人であつた。そうしてその営業区域は、若松区は独占、それ以外は一部訴外西日本鉄道株式会社のバス路線と競合していた。

この交通事業は、旧若松市営時代、昭和二六ないし三三年度の間、累計二億四六〇〇万円の利益金を同市一般会計に繰入れるほどの成績をあげていた。しかし、その後赤字が続いて、昭和三七年度は年間一億円を超える欠損を出し、原告による承継後も赤字が続いて、自主再建の検討が行われるにいたつた。

2 そのため、原告は財団法人生産性九州地方本部の意見を参考にし、一三項目の再建計画を作成し(三九年度)、運賃を改訂し(四〇年度)、経費節減等につとめたが、なお、昭和四〇年度においても一億六〇〇〇万円の赤字をみた。

昭和四一年七月、地公企法の改正により、同法による財政再建(法再建という)の道がひらかれるに及び、原告は、これによつて交通事業再建を行うことを検討した。

法再建は、地公企法の適用をうける公営の自動車運送事業等で、実質上収支が均衡していないもので、昭和四一年三月三一日において不良債務を有する場合、当該地方公共団体が地公企法第七章による財政再建を行うことを希望する場合に行われる。その際、当該地方公共団体は、当該地方議会の議決を経て、昭和四一年一二月三一日までにその旨を自治大臣に申出て「指定日」の指定をうけなければならない(同法第四三条一項、同法施行令第三一条)。

指定日の指定をうけた当該地方公共団体は、指定日現在において地公企法第四三条二、三項の定めるところにより財政再建計画を定め、当該地方議会の議決を経て自治大臣の承認をうける必要がある(同法第四四条)。

前記の不良債務とは、地公企法第四三条一項、同法施行令第三〇条により計算され、おおむね流動負債額から流動資産額を控除したものにあたる。原告の交通事業の場合、昭和四一年三月三一日現在の不良債務は七億九五九五万円余であつた。

法再建を行うと、右不良債務に相当する財政再建債を起して(同法第四五条)、その支払に充て、一時的に資金不足が解消される。

この財政再建債は、財政再建計画に従つて逐次償還を要するが(同法第四六条)、年三分五厘を超える利子部分は、一定の限度で国の利子補給がある(同法第四七条、同法施行令第三二条)。

それまで交通局は、資金不足をおぎなうため、原告の一般会計からの借入れのほか、一般の金融機関からも短期の借金をして、毎年度借り替えのかたちで更新しているような状況であつたから、法再建は有利な財政再建方法であり、これによつてすみやかに財政再建を行うことは、地公企法第三条に定める経営の基本原則にそうわけでもあつた。

そのかわり法再建にはいると、財政再建計画は厳しく遵守することを求められ、企業体の予算編成もまず財政再建計画に従つたものでなくてはならないから、企業に勤務する職員の給与その他勤務条件にも重大な影響を及ぼすものであつた(地公企法第五〇条、地方財政再建促進特別措置法第二一条参照)。

3 原告は、法再建によることの意向をかため、昭和四一年一一月、財政再建計画期間を一二年とする計画案を作成した。この期間が長すぎるということで後に自治省の指摘をうけることになるが(地公企法第四三条二項参照)、原告は同年一二月七日、交通局長名で参加人にこの計画案を示し、協力を求めた。その内容は、請求原因4の(二)の(5)に記載の通りで、参加人が協力を求められたのはワンマンカーへの移行、運賃精算方式の改善、運賃改訂、非乗務員約四〇名の配置転換、自然退職及び配置転換による車掌約一二〇名の削減、給与体系の適正化等であり、更に、女子車掌優遇退職制廃止、高齢者退職完全実施等であつた。

更に原告は、同年一二月二二日、市議会の議決を得て、自治大臣に交通事業につき法再建を行うことの申出をし、自治大臣は地公企法第四三条一項の指定日を、昭和四二年一月一日と指定した。

財政再建計画は、右指定日の属する年度及びこれに続くおおむね七年度以内に不良債務を解消し、財政の健全性を回復することを要請されているから(同法第四三条二項)、初年度は昭和四一企業会計年度となり、財政再建計画の自治大臣による承認(同法第四四条)も、同年度内(昭和四二年三月三一日まで)になされることの一般的要請があつた。

そこで、原告は、参加人に前記協力要請のあと、直ちに団体交渉、三役交渉を重ねた。この交渉は、昭和四一年度給与改訂問題もからめて行われたが、参加人は、財政再建問題については、事前協議協定の締結を求めた。

その後約九回の団体交渉とその間の三役交渉の結果、昭和四二年二月二五日、別紙記載の「事前協議制に関する協定」とこれに関する「確認書」が合意の上作成された。

これによると参加人は、右計画案の内容も了知の上、基本的に協力することを約束したことになるが、原告も、参加人所属の組合員の労働条件に関係を持つ財政再建計画部分の実施は、参加人の同意がない限り原則として協約上はできないことになつたわけである。してみると、この時点で、参加人が前記財政再建計画の内容を全て承認したとはいえず、協約上は交通事業改善委員会(以下委員会という)や団体交渉での協議に委ねられたことになつた。

その後、原告の交通局と参加人は、委員会または団体交渉を通じて財政再建計画案を検討した。

そうして、昭和四一年度給与改訂問題も、昭和四二年三月一一日には労使間で解決し、参加人は、同日付確認書(甲四)をもつて、同月三一日を目標に、計画内容を煮つめて、四月臨時市議会で議決が得られるよう協力すると約束した。

原告は、自治省と交渉して、三月市議会では財政再建計画案の議決を得られる見込みがないので、一時延期することの諒承を求め、期限の猶予を得た。

4 その間、自治省は、期限は猶予しつつも、事前検討の結果、一二年計画は地公企法第四三条二項の「指定日の属する年度及びこれに続くおおむね七年度以内」の要件に反し、このままでは承認できないとの結論に達して同年四月上旬、原告に対し、これを八年ぐらいの計画に変更せよと指示した。

他方参加人は、右一二年計画を検討し、運賃改訂と給与体系改訂には反対であるが、その余のワンマン化、新運賃精算方式、職員減員等には一応同意し、具体的実施については労働条件低下を来たさぬよう更に検討を行う旨の意向を固め、四月四日「一二年計画についての事業改善委員会における結合の最終回答」(甲一〇)として原告に提出した。

原告は、その直後にあたる四月一〇日、右自治省の指示を参加人に告知し、あわせて自治省との折衝経過を説明した。

ちなみに、参加人が運賃改訂、給与体系改訂に反対して来たことの故をもつて、直ちに前記財政再建計画に反対していたという結論にはならない。即ち、参加人はこれまでも運賃改訂(値上げ)には反対して来たが、これはもともと管理運営事項(地公労法第七条)に属し、組合内部でもこの点に重点を置いての実力阻止等の意向はなかつたし、このことは原告も察知していたと推認される。給与体系の改訂は、これまで事務職・現業職とも一本の給与表であつたものを、分離するのが内容であつたから、分断・差別の政策であるとして反対は強かつたが、双方共これは検討の余地を残すとみていたし、参加人が基本的には協力姿勢を示していたことはすでに述べた通りである。なお、右一二年計画は、いわゆる革新系市長時代に作成されたものであり、原告には昭和四二年三月一日付でいわゆる保守系の現市長が就任した。

5 その後四、五月の間、委員会は参加人の要請にもかかわらず再開されず、他の問題をふくめた団体交渉、三役交渉において、参加人から右期間短縮問題についての質疑等が為されたに止つたが、原告はその間、自治省の指示には従わざるを得ないとの結論に達して、部内であらたに財政再建計画(計画期間九年)を作成した。

そうして原告は、昭和四二年六月七日に開かれた委員会で、参加人に対し右新計画案を提示し、協力を求めた。ところが原告は、同時に同月一五日から予定されていた六月市議会に右新計画案を上程して議決を得るべく、すでに議員に配布する議案書にもこれを登載していたので、その姿勢が参加人の反撥を買うこととなつた。

即ち参加人は、新計画が事前協議をつくさないまま市議会で可決され、その後は交渉の余地がなくなることをおそれ、事実新計画によつて、各年度に解消すべき不良債務額が増大しているので、具体的実施段階において労働条件への更に不利益な条件が加わることをおそれた。

6 原告は、六月七日と八日の委員会で右新計画案を説明し、新らたに新計画に伴う特殊手当廃止等の協議を求めた。しかし参加人は、協議前に新計画を議会に上程しようとする原告には、事前協議の原則を貫く基本姿勢が失われたとして右新計画の市議会における審議に反対し、計画全体を事前協議にひきもどすことを求めた。なお、参加人がこのような態度をとつたもう一つの理由として、原告が新計画の実施段階において、直ちに給与表の分離を行い、また時間外勤務もできるだけなくしてゆく(手取り賃金の減少)旨の意向を明らかにしたこともあつた。

そこで参加人は、六月一一日頃から抗議行動として市民を対象とする財政再建計画反対の署名活動や原告に対する抗議ビラの貼付等の文書活動をはじめたほか、以下述べる如き争議に突入した。

以上の通り認めることができ、証人松田博文、同小林博司の供述中この認定に反する部分は措信できず、他に以上の認定を左右するに足る証拠はない。

四 参加人の争議行為について

1 成立に争いなき乙第三、第一六号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第九号証によると、訴外中島定樹は執行委員長、同矢野満敏、同山田加寿彦は副委員長、同小林博司は書記長、同山本を除くその余の訴外人らはいずれも執行委員であつた。また参加人には大会に次ぐ議決機関として中央委員会があり、訴外山本和夫は構成員たる中央委員であつた。右のとおり認めることができ、この認定に反する証拠はない。

2 前掲乙第二二号証、甲第五号証、証人小林博司の供述によると、参加人は、同年六月一六日、被告に対し、原告市交通局長芳賀茂之を相手方として、前記事前協議協定の尊重等に関するあつせんの申立をした。被告は、同月一九日、右申立に基き、労使間の諸取決めは尊重せらるべく、前記協定や確認書を無視する如き態度は極めて遺憾である旨、及び労使が更に協議を重ねて、交通局は市当局及び市議会に対し労使間正常化のための適当な措置をとるよう努力することを切望する旨の勧告を発した。これに対し、同交通局長は、同月二一日、右協定書等は企業存続のための経営合理化を労使が最大限に努力して達成することを大前提として作成され、当局は労働条件のみにしわよせすることなく財政再建の目的を遂げるよう計画案を策定したこと、しかし参加人は積極的に協力せず、計画の重要部分(料金改定、ワンマンカー導入、給与体系改訂)に強く反対していること、従つてその行為は協定そのものをふみにじるもので、当局は職員及びその家族にとつても死活問題につながる企業維持のため、緊急避難的措置として、再建計画議案を六月市議会に上程する手続をとつたと回答した。この認定を左右するに足る証拠はない。

3 争議の準備

証人小林博司の供述、前掲乙第二六号証の一、六、成立に争いなき同第八号証に弁論の全趣旨をあわせると、参加人は昭和四二年六月始め頃から、全組合員の投票によるストライキ批准の準備をはじめた。ところで参加人は、地公労法の適用をうけ、その組合規約に同盟罷業を行う場合の規定はないが(地公労法第四条、労働組合法第五条二項八号参照)、参加人は労組法第五条二項八号の規定に準じて同月一〇日頃、全組合員の投票を行い、投票率九一・四六%、賛成八六・六五%をもつてストライキを行うことを決定した。そうして、具体的戦術として、原告側の対応とにらみあわせて実施することを前提に、戦術委員会において、同月二一日から二三日まで超過勤務拒否、同月二七日から同年七月一日まで完全点検闘争を付加、同月三日に超過勤務拒否と一斉休暇闘争を行うことを決定した。

この認定を左右するに足る証拠はない。

4 財政再建計画の可決

順序は前後するが、その間の市議会での財政再建計画案の審議状況をみると、前掲甲第一、第二、第一四号証、証人松田博文の供述によると、右議案は六月一五日市議会提出後、予算特別委員会の審議を経て同年七月三日の本会議で可決承認された。この認定に反する証拠はない。

5 参加人が右の間、超勤拒否、完全点検、一斉休暇の各闘争を行つたことは、当事者間に争いがない。

(一) 昭和四二年六月二一日から二三日までの争議

右争いなき事実と、成立に争いなき乙第八号証、前掲乙第七号証、証人小林博司、同松田博文の各供述、弁論の全趣旨とこれにより成立を認める甲第一七号証をあわせると、本件当時交通局では超勤が恒常化し、超勤拒否があれば平常のダイヤ運行に支障を来たす状況にあつたこと、そのダイヤ編成には参加人側も参加していたこと、この状況のもとで参加人は、本件交渉難航が予想されるや、昭和四二年四月頃からいわゆる三六協定を一日ないし数日間の期間を定めて締結、更新しつつ事態の推移をみていたこと、同年六月一五日原告が財政再建計画を市議会に上程するや三六協定の締結、更新を拒否していわゆる超勤拒否闘争を実施することとし、市立養護学校スクールバス、福岡行き定期便を除いた部門で組合員の時間外勤務を拒否させることとし、請求原因4の(四)の(1)の通り争議を行つた。もつとも整備関係職員は午前八時から午後四時までの勤務であつたが、乗務員は担当ダイヤにあわせた個別の始・終業時間の定めをされていたから、この闘争によつて直ちに早朝、夕方又は夜間のダイヤ全てが運行不能となるわけではなかつた。この認定を左右するに足る証拠はない。

(イ) デイラー整備員の入構拒否

以上認定の事実によれば、本件超勤拒否は、単に組合員に超過勤務をさせないことを目的としたのではなく、前記の如く超勤が恒常化された勤務状態の下で参加人が原告の業務を阻害すること(争議)を狙つたことは明らかである。

前掲各証拠資料(但し松田証言はその一部)に、成立に争いなき乙第一一号証(証人田中勇内、同山田洸義各証言部分)、証人田中康信、同山田洸義の各供述、前掲乙第一一号証(証人石田茂雄証言部分)、証人松田の証言により成立を認める甲第六号証に弁論の全趣旨をあわせると、請求原因4の(四)の(2)の通り、訴外小林、同別城、同丸山、同山田(洸)、同田中、同菅坂らは、各営業所において、原告が依頼した各デイラー所属の整備員の入構就労に対し、あるいは抗議、あるいはピケツテイグした。その結果、デイラー整備員の入構就労者はなかつた。

しかし、その間に暴行、脅迫と認めるに足る行為はなく、デイラー整備員中には明らかに組合員の協力要請に応じて引揚げたと認められる者もあり(六月二一日折尾、訴外田中勇内、同藤井某、同原田某)、そのピケツテイグも平和的説得の域を出ていなかつたし、原告側管理職もしいて入構を強行することなく引揚げたものと認められる。

前記乙第一一号証中石田証言部分、証人松田の供述中、この認定に反する部分は措信できない。他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

(ロ) 松山営業所長の代替乗務阻止

前掲乙第七号証、証人松田博文の供述、成立に争いなき乙第一二号証(証人松田博文証言部分)に弁論の全趣旨をあわせると、六月二二日、折尾営業所で、松山営業所長の運転しようとするバスの前面に、組合員一〇数名がピケツテイングをし、訴外田中、同川原が抗議をし、松田職員課長をして運行を断念するのやむなきにいたらしめた事実は請求原因4の(四)の(3)のとおり認めることができる。

そのピケツテイングは、組合員らがバスの前に背をむけて立ち塞がり、車掌はステツプに上つたが松山所長はそれも出来ず、松田課長が管理職による運行は違法ではないと言つても「乗り越えて行くなら行つてくれ。」と答えて動かなかつた。訴外田中、同川原らは、機関決定によつて管理職の乗務も認めないと言い張り、訴外小林も松田課長からの電話に同旨の回答をした。

以上の確定に反する証人田中康信の供述は措信できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

(ハ) ビラ

前掲乙第七号証、成立に争いなき乙第一七、第一九号証、同第二五号証の一、二、第二九、第三〇号証、証人松田博文の供述、この供述により成立を認める甲第一二号証の一ないし六と弁論の全趣旨をあわせると、参加人が六月一一日頃からビラを庁舎等に貼付し、撤去命令をきかず、かつ原告の撤去作業を抗議して妨げたこと、原告主張の如きポスター等を規制する庁舎管理規程があること、これに訴外田中、同川原、同小林、同丸山らが直接関与したこと、について、請求原因4の(四)の(4)のとおりこれを認めることができる。

参加人は、本庁舎(交通局)の屋内外の窓、屋内の壁、廊下、整備工場内の整備事務所の屋内外の窓、壁等に糊で、「合理化反対」「ゼニクレ」「課長のくせに小さい事を色々言うな」とか、あるいは特定の管理職名をあげて「止めよ」「出て行け」とか書き込んだビラを貼付けた。特に管理職名を記載したビラの一部は、廊下の床面に貼付け、人がその上を踏んで歩くようにした。

更に参加人は当局の撤去作業を妨害阻止しただけでなく、そのあと原告主張の如き貼増しをしたことも認められる。

この認定を左右するに足る証拠はない。

(二) 昭和四二年六月二七日から七月一日までの争議

前掲乙第七、第八号証、乙第一二号証(証人脇岩男証言部分)の一部、成立に争いなき乙第一五号証、同第九号証(証人鶴丸正規証言部分)、同第二四号証の一ないし四、第二七号証の一、二、証人松田博文の供述に弁論の全趣旨をあわせると、この間参加人は前同様の超勤拒否と同時に完全点検闘争として、ことさら入念に仕業点検をし、些細な欠陥を問題にして出庫を遅らせたり出庫をさせなかつたりしたこと、訴外山田(加)、同別城、同山田(洸)、同脇、同菅坂が直接関与したこと、及びその具体的行為は、請求原因4の(五)の通り認めることができる。

勿論これも単に交通安全の配慮から入念に仕業点検をしたわけではなく、実質的には業務阻害(争議)を行おうとするものであつた。そのように理解しなければ、訴外脇が志水営業所長の代車準備を妨害した趣旨が判らなくなる。

パイロツトランプについて

自動車運転者は、出庫前に定められた仕業点検票による仕業点検をして、その結果を記入の上、異状の有無を報告し、上司の確認又は指示をうけなければならない(服務心得第四二条、第四三条参照)。

しかし、その点検票にパイロツトランプの記載はなく、本件車輛はワンマンカーでなかつたので、ドアの開閉は車掌の管理するところであり、服務心得上も運転者は車掌の合図に従つて、自動車の操縦をすることになつていた(第四一条)。よつて、志水二島営業所長は、運行に差支えないと判断したが、なお同日の仕業点検で同種の故障車が三、四台発見されている事実にてらすと、同所では、そのような車輛も通常運行されていた事実も推認されないではない(ワンマンカーでない場合)。

バツテリー液について

これも仕業点検票にはなく、運行に差支えるほど液不足があつたとは認められない。

以上の認定に反する前記乙第一二号証(脇証言部分)の記載部分は措信し難く、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

(三) 昭和四二年七月三日の争議

この日は前記の如く市議会における財政再建計画案採決の日であつた。

前掲乙第八、第一二(証人矢野満敏証言部分)号証、成立に争いなき乙第一〇(証人田中康信、同末次五郎各証言部分)、同第一三(証人植村耕治証言部分)と証人小林博司の供述の各一部、前掲乙第二六号証の一三、証人松田博文の供述、この供述により成立を認める甲第八号証、前掲乙第七(証人松田博文証言部分)、同第九(証人松山国雄証言部分)、同第一二(証人松田博文、同鶴丸正規各証言部分)、同第一三(証人志水清満証言部分)号証、成立に争いなき乙第一四、第一六、第一八号証、同第二六号証の一四ないし一六、同第三三号証に弁論の全趣旨をあわせると、参加人は、超勤拒否に加えて年次休暇闘争を実施した。そのため生じた具体的紛争並びにこれに訴外菅坂、同脇、同別城、同中島、同小林、同田中、同川原、同丸山、同山本らが直接関与したことは、請求原因4の(六)に記載の通りである。

更に、若干の点について述べると、参加人は、七月一日迄の争議終了の後、事態を検討したが、七月三日の本会議可決を指向する原告の態度がかわらなかつたため、同日の戦術委員会で、当日の争議を行うことを決定した。

すなわち、当日休暇闘争によつて約五割の不就労を実現することを目標に、「年次休暇は権利として取るのであつて何人も侵害できない」とか「要求時に与えなければ不当労働行為にもなる」とか教宣し、乗務員中の全闘争委員、非乗務員中の闘争委員及び一般組合員中の指名された者は年休を申請すること、その余の組合員もなるべく年休を消化することを要請した。

勿論この年休申請も当日の本会議における財政再建計画案可決を目指す原告を、事前協議にひきもどすことを目的とした争議手段であつて、自らの事業所における業務阻害の効果を求めたものであつた。

従つて、原告は、これを通常の年休申請とは扱わず、これを認めない方針を定め、病気休暇にかわる年休申請も診断書がなければ認めないこととした。

その結果前記の如く各営業所で紛争が発生した。

特に、小石営業所における渡辺運転手の振替勤務は、通常の乗務順から生じた欠員操作で、当日の休暇闘争とは関係がなく、しかも同人は非組合員で振替勤務を承諾していたので、参加人がこれを阻止する理由は見出せないものであつた。しかるに参加人側は、当日早朝に出勤していた鶴丸営業所長を取りかこみ、午前四時四〇分頃から午前八時頃まで激しくしつように抗議を続け、振替勤務取消しをさせた。

その他同日、訴外別城は、二島営業所運行管理代理者と管理職による代替乗務につき打合わせ中の石川自動車課主査に対し、管理職によるバス運行は組合指令により阻止すると申向けて打合わせを中止させた。

また訴外矢野は、若松渡場で、代替運行すべくバスを回送して来た志水二島営業所長に「組合員が議会行動から帰つて相当に興奮している」「バスを運行すると問題になる」等と申向けて運行をやめさせた。

前記乙第八、第一二(矢野証言部分)、同第一〇(田中、末次各証言部分)、同第一三(植村証言部分)号証及び証人小林の供述中以上の認定に反する部分は措信できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。

(四) 争議の結果

証人松田博文の供述、成立に争いなき乙第三二号証に弁論の全趣旨をあわせると、右争議の期間中、ダイヤの不規則運休が続き、乗客にある程度の混乱を生じたが、その欠行率は、六月二一日八・〇四%、二二日八・五五%、二三日四・一九%、二七日八・四八%、二八日八・六〇%、二九日三・九〇%、三〇日六・六二%、七月一日六・四〇%、二日一・四七%、三日三六・七九%であつた。

この認定を左右するに足る証拠はない。

五 地公労法第一一条一項について

1 地公労法第一一条一項は、その文理上企業職員及び組合に対して一切の争議行為といい得るものを禁止しているかにみえ、同第一二条は、その違反に対する不利益賦課として、前条に違反する行為をした職員は解雇することができるとする。そうしてまた地方公務員法第三二条は職員に対して法令等に従う義務を課していて、同法第二九条一項は同法に違反した職員につき免職を含む懲戒処分ができることを定める。

本件において訴外中島ほか一二名は、地公労法第一一条一項違反(及びこれをうけた北九州市交通局就業規程第九〇条一一号該当)の理由により、地方公務員法第二九条一項一、三号により懲戒処分をうけた(前掲乙第三二号証参照)わけである。

2 しかし憲法第二八条は、勤労者に団結権、団体交渉権その他の団体行動権(主として争議権と解される)を保障し、地方公営企業職員を含む公務員も原則的にこの保障をうけることは明らかである。

そうしてその趣旨は、憲法第二五条にいう生存権の保障を実質的ならしめるため、同第二七条一、二項とあいまつて、勤労者に対し、使用者に対する実質的な自由、平等を確保する手段を与えることにある。

即ち、憲法は、勤労条件等の決定は、労使の自主的交渉に委ねるべきものとし、その場合経済的に弱い立場にある勤労者に労働基本権を保障して実質的な平等を維持させるのが最も合理的であるという原則を採用していると解される。そうしてその場合、憲法第二八条は、団結権、団体交渉権及び争議権を一体として保障することにより、はじめて労使の実質的対等が実現されるという原則を示しているものと解される。

勿論いかなる基本的人権も、他の基本的人権との関係で無制約ではあり得ず、労働基本権も例外ではない。しかし、労働基本権が手段的権利であるからといつて、憲法がこれを保障した右の趣旨にてらし、簡単に他の手段による代置を認めるべきではないであろう。

3 地方公営企業に勤務する公務員の職務は、一般的にみて地方住民の共同利益に密接に関連し、争議によつてそのなすべき地方公営企業の業務が停廃すれば、当該住民の福祉を害するおそれがあることはいうまでもない。

この点は、他の地方公務員、更には国家公務員にも共通する性格であるから、概括して述べると、公務員は国民全体の奉仕者であつて(憲法第一五条二項)、その任免は国民に由来する(同条第一項、第九三条二項等参照)。公務員の給与その他の勤務条件は主権者たる国民が国会又は地方議会を通じてその基本を決定し、給与その他の労働条件につき団体交渉権、協約締結権を法律上保障する公共企業体等労働関係法、地公労法等も予算、国会、条例あるいは地方議会からの制約を認めている(憲法第七三条四号、第八三条、地方自治法第九六条一項一、二号、第二〇四条三項、第二〇四条の二、国家公務員法第六三条一項、地方公務員法第二四条六項、第二五条、公共企業体等労働関係法第八条、第一六条、地公労法第七条、第八条、第一〇条等参照)。

これらは、労使間の交渉のみで労働条件の決定をなし得る私企業の労働者と異る公務員の特殊性であり、この基本となる勤務条件法定主義、財政民主主義は公務員の労働基本権を制約する要素であろう。

4 しかし公務といつてもその性格・内容によつて公共性に強弱があり、公務員の担当する職務ないし業務についても差異があり、争議行為の内容、結果も様々であるから、公務員の争議による公務の停廃によつて生ずべき国民又は地方住民の共同利益の侵害の態様、程度も夫々同一でないことは明らかである。

更にいえば、公務員の給与その他の労働条件が、公務員が奉仕を義務づけられている主権者たる国民の意思によつて定まるものであつても、憲法は法律や条例によつて細部にわたつてこれを決定することを要求しているものではなく、大綱は法律や条例で定めるとしてもその範囲内で、実施面における裁量の余地を残すことは可能であり、憲法がかかる余地も認めていないと解する根拠はない。

そうして、これは単に、立法政策の問題のみならず、現行法制下においても法律、条例、予算の範囲内で政府ないし自治体側と公務員の組合が具体的な労働条件について事実上協議をなし、あるいは文書で協定を結んでこれを実施する余地はあるし(国家公務員法第一〇八条の五、一項、二項、地方公務員法第五五条一項、二項、九項、一〇項等参照)、そうして更にはまた協議結果を政府や自治体首長を通じて国会、地方議会の議決に反映させること(事実上の効果として)も可能であつて(予算、法案、条例案の提出等)、これを認めたとしても国会や地方議会の権限を侵すことにはならないであろう。

5 そうだとすれば、くりかえすことになるが勤労条件等の決定は労使の自主的交渉に委ね、その交渉において労使の実質的対等を実現するために、団結権、団体交渉権、団体行動権を保障しようという憲法第二八条が原則的に公務員にも適用されることを認めるものである以上、公務員の労働基本権に対する制約は、これを認めるとしてもその保障の趣旨を全く没却することは許されず、結局その重要性にかんがみ、前記4前段の諸事情を衡量しつつ、必要やむを得ない場合について、合理性の認められる最少限度の制限であるべく、違反に対する不利益賦課も必要な限度を超えず、また制限する場合にはこれに見合う代償措置が講じられるべきであるということになる。

6 地公労法第一一条一項は、前記の如くおよそ一切の争議行為を禁ずるかにみえる文言である。従つて若し本条項を争議の全面一律禁止の規定としてのみ解釈運用しなければならないとすれば、本条項による労働基本権の制約は、前記5の条件に反し、著しく合理性を欠き、違憲であるか、もしくはその疑いが極めて強いということになる。何故ならば、公務員の特殊性に応じて争議権を制約するにせよ、その態様には多くの方法が考えられるのに(労働関係調整法第三五条の二、第三六条ないし第三八条、電気事業及び石炭鉱業における争議行為の方法の規制に関する法律第三条、船員法第三〇条等参照)、争議主体、争議態様その他前述の条件を顧慮することなく全面一律に争議を禁止することは、憲法第二八条による労働基本権保障の趣旨に甚だしく背馳するからである。

7 このように考えると、地公労法第一一条一項は、地方公営企業の業務もしくは職員の職務の公共性の強弱、争議行為の種類、態様、規模等を考慮し、労働基本権の尊重保障によつて実現される法益と争議行為を禁止することによつて保護される法益を衡量し、なお住民生活全体の利益を害し、住民生活への重大な障害をもたらし、もしくはそのおそれがあるものとして合理的判断により禁止すべき行為を禁止したものと解釈するのが相当である。

地公労法第一一条一項は、右の如く解釈せられるべきものであり、そのように解釈するならば、同条項は合憲であつて、同条項の解釈に関する原告、参加人のこれに反する主張はいずれも採用できない。

六 不当労働行為の成立について

1 本件争議行為の検討

本件昭和四二年六月二一日から二三日まで、同月二七日から七月一日まで及び同月三日の参加人及びその組合員(訴外中島ほか一二名を含む)らの行動が、超勤拒否、安全点検、あるいは年休要求と、いろいろ名目は違つても要するに自らの事業所における業務阻害を目的とした争議行為ないしはそれに付随した争議手段であつたことは、前記認定の事実にてらして明らかであり、その意味で年休申請も労働者の私的生活上の必要に基くものではなく、その実質はストライキであつた。

そこで、右期間に発生した個別の紛争の評価は別として、以上の争議行為が地公労法第一一条一項で禁止された争議行為に該当するかどうかを判断する。

前記認定にかかる本件交通事業の規模、市民利用度、独占の度合い(第三項1)、争議の規模、態様(第四項5の(一)ないし(三))、争議の結果(第四項5の(四))、本件争議に参加した参加人所属の組合員らの職種(乗務員、整備員主体)等を検討するに、その期間において延べ九日に及び、争議の性質上ダイヤの運休が不規則に生じたため、乗客の混乱もある程度発生した事実はあるが、本件交通事業の内容は民間企業のそれと異るところはなく、その独占状態等を考慮しても公共性の度合いは特段に強いとはいえず、本件程度の争議を禁止してまで守らなければならなかつたほど地方住民の共同利益に対する侵害が重大であり、住民生活への重大な障害があつた(もしくはそのおそれがあつた)とは考え難い。

従つて、本件争議行為が地公労法第一一条一項によつて禁止された争議行為にあたるとは認められず、全体としてみるときは正当な労働組合の活動であつたと判断するのが相当である。

2 本件争議期間中に発生した個別の紛争について

前記認定にかかる紛争のうち

(イ) 六月二二日折尾営業所における松山営業所長の代替乗務阻止(訴外田中、同川原、同小林関与)、

(ロ) 六月二七日小石営業所における志水営業所長に対する代車準備阻止(訴外脇関与)、

(ハ) 七月三日小石営業所における渡辺運転手振替勤務阻止(訴外菅坂、同脇関与)、

(ニ) 七月三日整備課事務所における訴外山本のガラス破損行為

は正当な組合活動とは認め難く違法評価をうけざるを得ないが、これと不当労働行為との関係は後述する。

その余の争議手段ないし紛争について。

デイラー整備員の入構就労拒否については違法とするほどのものがなかつたことは前記の通りである。

ビラ貼りに関しては、その手段方法に若干穏当を欠くものがあつたことは否定できないが、前記の如く全体としての争議そのものが違法とは認められない以上、直ちに争議時の文書活動として正当性を否定することは相当でない。なお、本件認定の程度のビラ貼りで、建物の効用を減損せしめたとも認められない。

点検闘争についてもこれが通常の業務のうちで行われたものであるなら格別、原告が地公労法第一一条一項の争議禁止を文言通りに全面一律禁止と解して組合による一切の争議行為を認めない立場で臨んでいたわけであるから、参加人はこれに対していわゆる順法闘争のかたちで争議を行つたものと推認される(この認定に反する証拠はない)。従つて、就業命令に対する抗議活動のかたちで業務阻害が行われたことは自然のなりゆきであり、その中に暴行脅迫にわたる行為がない限り(これを認めるに足る証拠はない)特に違法と目すべきものはない。

年休闘争についても点検闘争と同旨の理由により、特に違法と目すべきものはない。

もつともその日に、訴外別城及び同矢野による管理職代替運行に関する紛議が生じているが、これは松山所長に対する乗務阻止や渡辺運転手の振替勤務阻止ほどの激しさ、しつようさは認められず、争議中の言動としては特に不当とはいえない。

3 原告は、前記の如く訴外中島ほか一二名に対する懲戒処分を行つたが、その主たる理由は同人らが夫々組合役職にある者として企画、指導して行つた本件の争議が全体として地公労法第一一条一項(及びこれをうけた北九州市交通局就業規程第九〇条一一号)に違反ないし該当する点にあつたことは疑いがない。

本件争議中には、前記の如く違法評価を免れない若干の個別行為は認められるが、その不当性は、原告が争議そのものの違法を主張して為した争議対策に対する行為として考えれば、おおむね軽微であり、本件懲戒処分を為した真の理由は原告の主張は別として、かかる不当性の軽微な当該個別行為にあるとは認められないからである。

してみると、本件懲戒処分は、右訴外人らが夫々組合の役職にある者として昭和四二年六月二一日から同年七月一日までの間にいわゆる三波にわたる争議を企画、指導関与して実施した点に決定的な動機があつたというべきである。そうすると、その争議が全体としてみる限り、地公労法第一一条一項の禁止する争議行為に該当せず、従つて参加人組合の正当な行為と評価される以上、本件懲戒処分は、労働者が労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて為された不利益取扱いであると認めるのが相当である。

七 本件救済命令の正当性

そうだとすると、被告が本件懲戒処分が労働組合法第七条一号の不当労働行為を構成すると判定して発した本件命令は結果において相当であり、これを取消すべき瑕疵は認められない。

八 よつて、本訴請求は理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(別紙)

事前協議制に関する協定(昭和四二年二月二五日付)

甲 北九州市交通局

乙 北九州市交通局労働組合

第一条 この協定は、交通事業の正常な運営と公共の福祉の増進のため、労使の間において職員の労働条件について事前に協議し、もつて民主的、平和的な解決をはかることを目的とする。

第二条 前条の事前協議機関として、交通事業改善委員会(以下「委員会」という。)を設置する。

2 委員会の運営に関して必要な事項は、甲乙協議して決定する。

第三条 事前協議の対象事項は、交通事業の近代化、能率化、既存事業の変更(事業規模の拡充、若しくは縮少を含む。)または経費の節減等に関連するすべての労働条件とする。

第四条 委員会における協議は、双方誠意をもつてかつ速やかに行なうものとし、意見の一致をみた事項は団体交渉において確認する。

2 委員会において、意見の一致をみるに至らなかつた事項は、あらためて団体交渉の対象とし、双方最大限の努力をして円満解決を計ることとする。

第五条 この協議の内容に疑義を生じた場合は甲、乙すみやかに協議して処理する。

第六条 この協定の有効期間は昭和四二年二月二五日から向う一年とする。ただし、有効期間満了の二月前までに甲、乙の一方から改廃の意思表示がないときは、更に一年延長し、以後もこの例による。

第七条 (省略)

確認書(昭和四二年二月二五日付)

昭和四二年二月一三日の団体交渉において事前協議に関する協定第四条第二項の解釈について労使双方協議の結果次のとおり意見の一致をみたので確認する。

再建計画に関連して提案された合理化事項について

1 当局は労使双方による協議が合意に達しない場合、一方的に強行実施しない。

2 労働組合は審議を拒否するようなことはしない。

北九州市交通局就業規程

第九〇条 職員が次の各号の一に該当するときは、免職の処分をする。

(11) 同盟罷業、怠業、その他局の正常な運営を阻害する行為をしたとき、もしくはこのような行為を共謀し、そそのかしまたはあおつたとき。

〔参考資料〕

命令書

(福岡地労委昭和四二年(不)第二六号 昭四七年四月二六日 命令)

申立人 北九州市交通局労働組合

被申立人 北九州市交通事業管理者

主文

被申立人は昭和四二年八月二日付行なつた中島定樹、管坂弘之、別城登に対する停職六カ月、矢野満敏、山田加寿彦、小林博司、山田洸義、脇岩男に対する停職三カ月、丸山靖雄、田中康信、川原憲治、山本和夫に対する停職一カ月、末次五郎に対する戒告の各懲戒処分を取消し、同人らに対する賃金および処遇面において、上記の懲戒処分がなかつたと同様の状態を回復しなければならない。

理由

第一認定した事実

一、当事者

申立人北九州市交通局労働組合(以下「申立人」という。)は地方公共団体である北九州市が経営する自動車運送事業ならびに軌道事業に勤務する一般職に属する地方公務員によつて結成された労働組合で、地方公営企業労働関係法の適用を受け、本件申立当時の組合員数は五七三名である。

なお、北九州市の上記事業には申立人のほか北九州市交通局新労働組合(本件申立当時の組合員数は約三〇名)がある。

被申立人北九州市交通局長(以下「被申立人」という。)は北九州市が昭和三八年二月一〇日北九州五市合併に伴ない旧若松市から引き継いで経営する自動車運送事業ならびに軌道事業について地方公営企業法第七条の規定にもとづき置かれた管理者であつて、肩書地に本庁および二島営業所を、そのほか北九州市八幡区に折尾営業所、若松区に小石営業所をそれぞれ設けているものである。

二、市議会にたいする交通事業財政再建計画案提案に至るまでの経過

(1) 北九州市の交通事業は旧若松市が経営していた昭和三六年頃から次第に経営が悪化し、昭和四〇年度決算では累積赤字が約七億九、〇〇〇万円となつた。このため北九州市は地方公営企業法の規定による交通事業の財政再建を行なうべく、同法第四三条第一項の規定にもとづき昭和四一年一二月の市議会の議決を経て自治大臣にその旨を申し出た。

その結果、昭和四二年三月末日までにその財政再建計画を策定し市議会の議決を経て自治大臣の承認を得なければならないことになつた。

(2) 一方、その財政再建計画の立案に当つていた被申立人は累積赤字を昭和四一年度から一二年間で解消しようとする計画案(以下「一二年計画」という。)をまとめ、昭和四一年一一月二四日、申立人にたいし、この一二年計画案を提示した。この計画案の骨子は運賃増額等による収入増を図るほか、経費を節減することであり、経費節減の方法としてはワンマン・カーの導入、閑散便の廃止などによる運行ダイヤの「適正化」、非乗務員二一名の配置転換、車掌一二〇名程度の削減等による職員の減員、勤務体系の改訂、および給与体系の改訂、特殊勤務手当の廃止、時間外勤務手当の節減、期末勤勉手当の支給率の低下、昇給延伸基準の改正、女子車掌優遇退職制度の改正、五八歳以上の高齢者の退職など人件費の節減などが挙げられ、労働条件の大幅な変更を伴なうものであつた。

この計画案の提示を受けた申立人は合理化反対の意向を示し、既得労働条件の確保、市民利用者の利益擁護を目標とした闘争方針を確立した。

(3) 財政再建計画案を提示した被申立人は、申立人にたいし、計画案の協議に当つて、団体交渉で審議したのでは進展が困難であるので小委員会方式で交渉を行ないたい旨申し入れ、申立人はこれに同意したが他面再建計画の実施に当つては労使の意見の一致を前提とするよう要求した。被申立人もこの要求に同意し、その結果、申立人と被申立人は、昭和四二年二月二五日、事前協議制に関する協定ならびに確認書を締結した。

事前協議制に関する協定は、労使間において職員の労働条件について事前に協議しもつて民主的平和的な解決を図ることを目的とし(第一条)、事前協議機関として交通事業改善委員会を設置し(第二条)同委員会において意見の一致をみるに至らなかつた事項はあらためて団体交渉の対象とし双方最大限の努力をして円満解決を計ること(第四条第二項)を協定したものであつた。さらに、確認書は、事前協議に関する協定第四条第二項の解釈について、再建計画に関連して提案された合理化事項について当局は労使双方による協議が合意に達しない場合一方的に強行実施しないこと、労働組合は審議拒否しないことに意見の一致をみたことを確認したものであつた。

(4) この結果、同年二月下旬から四月上旬までの間、労使各五人の委員による交通事業改善委員会が一〇数回開催されて計画案について協議が行なわれ、また他企業の調査等が行なわれた。

ところが、同年四月上旬に至つて被申立人は自治省から一二年計画では不充分であるので再建期間を短縮するよう指示を受け、自治省と折衝の結果、一二年計画を昭和四一年度から九カ年で財政を再建する計画(以下「九年計画」という。)に変更することを余儀なくされた。その後被申立人は九年計画の立案、そのための自治省との折衝等のため忙殺され、ために改善委員会は六月上旬まで開催されなかつた。

(5) 同年六月七日および八日に改善委員会が開催され、被申立人は申立人にたいし九年計画案を提示し、六月市議会にこの案を提案する旨通告した。被申立人側が議会への提案を急ぐ理由は、財政再建計画は同年三月までに策定すべきであつたところ申立人との交渉が難航したため間に合わなくなつたので、自治省と折衝し同年五月開催の臨時議会まで猶予してもらつていたところ、計画案の変更等の事情もあつて五月市議会への提案も果せなかつた。したがつて、どうしても六月市議会では財政再建計画の承認を得たうえで、自治大臣の承認を受けなければならないということにあつた。

これにたいし、申立人は労使の意見の一致をみないまま議会に提案することは事前協議制に関する協定に違反すると主張し、交渉の継続を要求した。

しかし、被申立人の九年計画案は、六月一五日、市議会に提案された。

三、市議会における財政再建計画の議決承認に至るまでの経過

(1) 財政再建計画案が労使の合意をみないまま市議会に提案されたため申立人は、六月一五日、事前協議制に関する協定の遵守を求めて当労働委員会にあつせんを申請した。当労働委員会のあつせん員は、労使双方から事情聴取のうえ、六月一九日に「財政再建計画短縮等のやむを得ない事情があつたとしても当局の協定ならびに確認書を無視するが如き態度は極めて遺憾であり、北九州市交通局の財政事情を配慮しつつ労使が更に協議を重ねるとともに、交通局は市当局ならびに市議会に対して労使間の正常化のため適当な措置を講ずるよう努力されることを切望する」との趣旨の勧告を行なつた。しかし、被申立人はこの勧告を拒否した。

(2) 一方、申立人は六月一〇日、一一日および一二日の三日間に亘つて組合員の全員投票を行ないその結果いわゆるスト権の集約を行ない、その後、六月一五日の戦術委員会で第一波実力行使(六月二一日から三日間の超勤拒否闘争)、第二波実力行使(六月二七日から七月一日まで五日間の超勤拒否ならびに完全点検闘争)および七月三日の第三波実力行使の闘争スケジュールを決定した。

(3) 申立人は、被申立人にたいし、事前協議制に関する協定に従つて、市議会提案前に財政再建計画案について労使の意見の一致をみるべく交渉を行なうべきと主張したのに対し、被申立人は議会提案後あるいは承認決議の後においても再建計画の具体的細目について申立人と協議を続けるが六月市議会において財政再建計画の承認を求めなければならないとしてその態度を変えず、また当労働委員会の勧告も拒否するとの態度に出たため、申立人は市議会の承認決議後では計画案についての交渉の余地は殆んどなくなると抗議するとともに闘争スケジユールにしたがつて第一波ないし第三波の実力行使を行なつた。

この間、被申立人は議会対策事務に忙殺され、再建計画に関する労使の団体交渉ないしは改善委員会は開催されず、交渉は中断したまま七月三日、財政再建計画案は市議会本会議において可決承認された。

四、第一波の実力行使

(1) 時間外勤務拒否闘争

被申立人のバス運行ダイヤは労使の委員によつて構成されるダイヤ編成審議会の審議を経て定められるが、本件紛争当時の公示ダイヤは申立人の同意のもとに一日約九勤務が時間外勤務ダイヤとして編成されており、労働基準法第三六条の規定にもとづく協定(以下「三六協定」という。)を結んで時間外勤務が実施されていた。しかし、同年四月ごろに至つて申立人は財政再建計画案に関する交渉の難航を予想し、長期間の三六協定の締結を拒み、ために当事者間においては一日一日の短期間について三六協定を繰返し締結していた。

しかし、財政再建計画案に関することの経緯が上記のとおり労使間の意見のそごを来たして解決への進展をみなかつたので、申立人は、同年六月二一日に至つて、第一波の実力行使として同日から二三日までの三日間にわたり三六協定の締結を拒否し、北九州市立養護学校スクールバス、貸切バスおよび福岡市行き定期便を除く全ての部門で時間外勤務を拒否した。

このため一日につき一五勤務ぐらいのバス運行の欠行が生じた。

なお、これに伴ないつぎのような紛議が生じた。

(2) デイーラー整備員に関する紛争

A 時間外勤務拒否により午後四時以降の整備作業が困難となるため被申立人は、昭和四二年六月二一日の午前中、石田整備課長および栗本労務係長を通じ、申立人にたいし、各営業所ごとに二名づつのデイーラー整備員を外部から雇い入れ整備作業に従事させたいので了解を乞う旨申し入れ、いすず自動車、ニツサン自動車、ふそう自動車に対し、各デイーラー整備員の派遣を要請した。上記の申し入れを受けた申立人の小林書記長はデイーラー整備員の入構はトラブルの原因となるので認め難い、あえて入構を強行するなら申立人側としては実力をもつて阻止せざるを得ない旨答えた。

B 同日午後三時三〇分頃、二島営業所にふそう自動車のデイーラー整備員二名が来たが、構門附近にて別城登、丸山靖雄両執行委員外組合員六~七名がその整備員の車の前面にピケを張るなどして整備員の入構を阻止した。石田整備課長は別城、丸山らにたいし整備員を入構させるよう約二〇分間折衝したが、別城、丸山ら組合員はこれに応ぜず整備員の車の横側に坐り込んだ。このため同課長は、その整備員を入構させることを断念し、これら整備員を小石営業所にて就労させるべく、阿部管理係長に整備員を小石営業所に案内させた。

C 同日午後四時頃、二島営業所に日産自動車のデイーラー整備員二人位が来た。構内附近にて山田洸義、丸山靖雄両執行委員は整備員らにたいし争議中であり入構されては困るので引取つてもらいたい旨申し入れたところ、整備員らは申し入れを了解して直ちに帰つた。

D 同日午後四時頃、いすゞ自動車北九州支店のデイーラー整備員田中勇内は上司の命をうけ整備作業を行なうべく同僚二人とともに折尾営業所に赴いたところ、構門附近で同人らの乗つていた車の前に組合員四~五人が現われ組合にたいする協力を求め入構して作業することのないよう要請した。田中勇内ら整備員は組合員の言分を了解しすぐその場を引揚げ、その後田中は石田整備課長に電話でピケ隊に阻止されて入構できないと報告した。同課長は田中勇内に組合員の目に立たぬ場所で待機するよう指示したが、その後同課長は、申立人の執行委員田中康信から電話で組合の了解なしにデイーラー整備員を要請したことはけしからんとの趣旨の抗議を受けたので、田中勇内整備員の状況報告や田中康信執行委員の抗議により整備員による作業を断念し整備員らに対し帰社するよう指示を与えた。

E 同日午後四時五〇分頃、石田整備課長は小石営業所に電話し阿部管理係長に同営業所におけるデイーラー整備員の入構の状況について報告を求めたが、阿部係長は午後四時三〇分頃から菅坂弘之執行委員外一五ないし一六名の組合員から抗議を受けておりデイーラー整備員の入構は不可能であると報告した。

これにより石田整備課長はデイーラー整備員の入構就労は困難と判断し、整備員を引揚げさせるよう指示をした。

(3) 教宣ビラの貼付と撤去に関する紛争

A 申立人側は、六月一一日頃から、本庁舎一階から三階までの屋内外の窓、屋内の壁、廊下などおよび整備工場にある整備課事務所の屋内外の窓や壁などに合理化反対に関するものあるいは職制を個人的に中傷もしくは攻撃するものなど多数のビラを糊又はセロテープ等によつて貼付・結着していたが、被申立人はこれらのビラ貼り行為は庁舎管理規程に違反するものとして六月一六日に撤去を要請する文書、さらに六月二一日に撤去命令書を手交せんとした。いずれの場合も申立人側は文書の受領を拒んだため被申立人側は申立人がビラを撤去しない場合は被申立人の手によつて撤去する旨通告した。

B 六月二二日、高崎庶務課長は同課松本係長および石田整備課長に対し午後一時から本庁舎および整備工場の整備課事務所に貼つてあるビラを撤去するよう命じて、申立人の時間外勤務拒否によるバスダイヤの混乱についての乗客の苦情処理の目的で折尾駅前監督派出所へ赴いた。高崎課長は午後一時頃派出所に着いたが、間もなく松本係長から電話があり、ビラ撤去作業を始めたところ多数の組合員から強い抗議が行なわれていると報告を受けたが、高崎課長はなお撤去作業を続けるよう指示した。

一方、被申立人が局外作業員を雇い入れてビラ撤去作業を始めたことを知り、現実の指示者が高崎庶務課長であることを聞いた申立人書記長小林博司は申立人折尾支部の田中康信および川原憲治執行委員に対し、折尾駅前監督派出所に行き同所に居る高崎庶務課長にたいし抗議するとともに撤去作業の中止を要請するように依頼した。

田中、川原両執行委員は組合員約一〇人を伴なつて折尾駅前に赴き、派出所内に居る高崎庶務課長にたいし、事前協議制に関する協定や地労委の勧告に沿つて根本的な解決のために努力すべき重大な時期に当つてビラの如き些細な問題を取り上げるのは本末転倒ではないかとの趣旨で三〇分ないし四〇分に亘つて相当激しく抗議し、撤去作業の中止を要請した。この抗議と前後して松本係長から組合の抗議により雇い入れた作業員もこれをいとうので、撤去作業を続けることは困難である旨二~三回に亘つて報告を受けたので、高崎庶務課長はこれ以上撤去作業を続ければ紛糾が起るばかりと判断し作業の中止を指示した。

C 同日午後一時頃石田整備課長が被申立人が雇い入れた作業員にビラ撤去作業について指示を与えた後間もなく小林博司書記長及び丸山靖雄執行委員他組合員二名が整備課事務室内に入つて来て、石田整備課長にたいしビラ撤去作業について抗議し作業中止を要請した。石田整備課長は組合が庁舎管理規程に違反して無断で貼つたものだから撤去する旨応酬したが、丸山らは諒承せず約四〇分間に亘つて抗議を続けた。石田課長は雇い入れた作業員も事態を心配していると見てとりこれ以上撤去作業を続けることは困難と判断し、松本係長を通じて高崎庶務課長と相談した結果作業を中止する旨小林、丸山らに通告した、これまでの間、作業員の手によつて二~三枚のビラが撤去されていたが、小林、丸山らは組合のビラを剥げばその何倍も貼りかえすと言い残してその場を引揚げたが、その後午後四時すぎに至り、丸山らは組合員一四~五名とともに整備課事務所に来て、石田整備課長が制止したにもかかわらず、事務所の窓ガラスに五〇~六〇枚のビラをセロテープを用いて貼付した。

(4) 管理職による運行の阻止に関する紛争

六月二二日、折尾営業所において、当日の二番勤務の運転手が出行時間になつても出勤しないため、かねてより欠行の恐れあるときは代替乗務して欠行を防ぐよう指示を受けていた松山営業所長が代替乗務し一回目のダイヤを運行したのち、午前五時五〇分頃、二回目のダイヤを運行するため乗務しようとしたところ、田中康信、川原憲治両執行委員は管理職による運行は認めないことを組合の機関で決定しているとしてあるいは何年も乗務していない所長がバスを運転すれば乗客に危険を及ぼす恐れがあるとしてこれに反対した。所長の業務を応援すべく出張して来ていた松田職員課長は運行を阻止しないよう申し入れて田中、川原らと折衝したが了解つかず、ために松山所長に乗務を命じた。しかし、組合員一〇数名がバスの前面にピケツトを張り、松田職員課長が運行を阻止しないよう要請したが、ピケツトは解かれなかつた。

このため運行を強行すれば怪我人が出る恐れがあると判断した松田職員課長は午前六時五〇分頃松山所長によるバス運行を断念した。

この結果、二番勤務のその後の五、六回分のダイヤの欠行を生じた。

五、第二波実力行使

申立人は第二波の実力行使として昭和四二年六月二七日から七月一日までの五日間、三六協定の締結をせず、時間外勤務を拒否するとともに別にこの期間中完全点検闘争を実施した。

かねて、運転手は出庫前仕業点検表に定められた二五項目の点検個所について、車輛を点検し、管理者に異状の有無を報告し、その確認または指示を受けることが義務づけられていた。申立人は完全点検闘争において各営業所毎に執行委員数名を派遣し、運転手の行なう仕業点検を指導し平常よりも時間をかけて綿密に点検し、二五項目以外の事項についても細部に亘つて極めて慎重に点検し、もし欠陥を発見した場合には、その部分が実際の車の運行には殆んど差支えがなく何らの危険を伴なうおそれがないような場合でも、これを充分補正しなければ運行に使用しないようにした。このため局全体で時間外勤務拒否闘争と併せて三・九%ないし八・六%のダイヤの欠行を来たした。

なお、処分理由に掲げられたつぎのような紛争が各営業所で発生した。

(1) 二島営業所関係

七月一日午前五時三〇分頃から、副執行委員長山田加寿彦、執行委員別城登、同山田洸義の三名の者は、順次出庫する車輛について各運転手と共同して仕業点検を行なつたが、その際、運行管理者である志水営業所長に対し、点検を行なつた車輛中三~四台の車輛(ツー・マン用)についてパイロツト・ランプの点滅不良を理由に不良個所を整備しなければ出庫は認められない旨申し入れた。これに対し志水所長はパイロツト・ランプの点検は運転者に義務づけられてないので点検の必要はない、又パイロツト・ランプが不良でも運行には差し支えないと述べ出庫を要請した。しかし、上記三名の組合役員はこれを容れず、両者押問答のあげく、結局志水所長は不良個所の修理に当つたが不良個所が簡単に修理できないものであつたため二台の車について各運行ダイヤの〇・五回分の欠行を余儀なくされた。

(2) 小石営業所関係

A 六月二七日の前後数日間、志水二島営業所長は、小石営業所長が病気休暇をとつて不在のため、上司の命により小石営業所の運行管理業務を担当したのであるが、その際、六月二七日午前五時すぎ志水所長は二島営業所から貸切用バス市号四一号車を運転して小石営業所へ行つたが、構門附近に菅坂弘之、脇岩男両執行委員が出て来て志水所長にたいし「何のためこの車を持つて来たのか」と問うた。志村所長は、申立人の点検闘争に備えて代車にするつもりもあつて乗つて来ていたが、菅坂、脇にたいしてはそのことを明言せずしてただ「小石営業所に来る足の便がないので乗つて来た」と答えた。菅坂、脇らは「代車にするつもりで持つて来たのだろう、代車は入構できない」などと云つて暫らく押し問答したが、結局、志水所長は車を構内に入れ、キーをつけたままにして組合側の仕業点検に立会するなど運行管理者としての職務に就いた。その後、点検作業中の志水所長に対し脇執行委員は上記の市号四一号車のキーを手にして「車にキーをつけたまゝにしておくと車を動かされるかも分らないので、預かつておく」と云つた。志水所長はキーを車につけたままにしておくようにと云つたが、脇はそのまゝこれを所持しつづけた。午前七時三〇分頃志水所長が、二島営業所へ戻ろうとしてキーを返すように云つたところ、脇は着用していたヤツケのポケツトからキーを取り出して志水所長に手渡した。

B 七月一日、菅坂弘之、脇岩男両執行委員は午前五時二〇分頃から七時すぎにかけ順次出庫する車輛について各運転手と共同して仕業点検を行ない、運行管理者である鶴丸営業所長に四~五台の車についてバツテリー液が不足しているので運行できない旨申告した。鶴丸所長はバツテリー液は仕業点検表に記載されてないので点検の必要はない旨申し渡したが、菅坂、脇らはバツテリー液の補給をしなければ運行を認めるわけにはいかないと運行を阻止する意向を示した。このため所定の点検時間を超過してバスの出行遅れが生じた結果、三勤務四回のダイヤが欠行した。

(3) 折尾営業所関係

六月二七日から七月一日まで申立人は完全点検闘争を行なつたが、折尾営業所においては平常の仕業点検と特に変つた点は見受けられず仕業点検が原因となつて欠行ダイヤや出行遅れが生じた事実はない。

六、第三波実力行使

申立組合は、財政再建案が市議会に上程され、その承認の議決が為されるものと予想された同年七月三日に第三波の実力行使として第一波、第二波の場合と同様の超勤拒否闘争とともにあらたに多数組合員の一斉休暇を請求してダイヤの運行を大幅に阻止するとともに多数の組合員が市議会に赴き承認議決をしないように請願するという闘争を決行することにした。この機関決定は七月一日ごろ戦術委員会を開いて決定されたもので、その決定は、機関紙「北九交通レポート」により「戦術委員会では七月三日は五割ぐらいの止まる方法として休暇闘争に入る事を決定しました。乗務員関係は全闘争委員が休暇をとること。非乗務員関係は闘争委員及一般組合の中で指名します。指名された人は必らず消化して下さい。休暇をとつた人、午後出の人、公休の人は必らず各営業所に午前五時に集合して下さい。」と組合員に教宣された。これを知つた被申立人は七月三日の休暇申請についてはこれを認めない方針を決定した。しかし申立人は休暇闘争を決行し、その結果三六・七九%のダイヤの欠行を生じた。

七月一日から三日にかけて休暇承認を求める申立人側と承認を拒まんとした被申立人側との間で紛争が生じたがこのことに関し、各営業所及び整備課に関して次のような事実が認められる。

(1) 二島営業所関係

A 七月一日午後九時頃別城登執行委員及び山本和夫中央委員は組合員約二〇名とともに志水営業所長に対し七月三日の休暇を承認するよう申し入れ、上司の指示により承認できないとこれを拒否した志水所長との間で午後一一時頃まで「認めよ」「認められない」とのやりとりが行なわれ、結局両者物別れに終つた。

B 七月二日午前一〇時過頃別城執行委員外組合員約二〇名は本庁舎二階会議室において松田職員課長、泉自動車課長および志水所長に対し当局の方針は勤務に支障の有無にかかわらず休暇を承認しないとするものだとして抗議するとともに七月三日の休暇を承認するよう要請した。松田課長らは七月三日は申立人が休暇闘争を予定しており業務に支障を来たすので当日の休暇は承認できない旨応論したが、別城らの抗議にあつて、結局、松田課長は重大な用事のある者については業務に支障がない限り休暇を承認する旨発言した。これを聞いて別城は着用していたヤツケの中から約二〇名分の休暇願書を取り出し松田課長らに提出した。松田課長らはそんなに多勢では困る旨抗議したが、認めると云つたではないかとの別城らの議論に抗しきれず、やむなく申請の全員約二〇名について休暇を承認した。

C 七月三日午前五時頃点呼場において運転手大場某が当日の休暇を申請したため、志水所長は当日は申立人の休暇闘争が行なわれるし時間外勤務拒否が行なわれているので交替勤務者がいないので休暇の期日を変更するよう話していたところ、別城執行委員外数名の者が来て「休暇を認めよ」「認められない」の論争となつた。その後事務室に場所をかえ志水所長および同所長を応援するため出張して来ていた泉自動車課長と別城ら組合員との間で同様の論争が行なわれたが、このことが契機となつて約一〇名の組合員が我も我もと当日の休暇を申請した。志水所長らはダイヤの欠行など業務に支障が生ずるので当日の休暇は承認できない旨繰返し述べたが、組合員から病気の者はどうするのかと詰問され、泉自動車課長は病気の者は乗務させるわけにはいかないと述べた。

これを聞いて別城は休暇申請の理由を病気のためと書き直すよう指示し、各人が指示に従がつて書き替えた申請書を一括して志水所長が座していた机の上に提出した。

志水所長らは病気の者は医師の診断書をつけて病気欠勤の申請をするよう要請したが、組合員らは早朝で医者は起床していないとか初診料等の経費を局が負担するのかなどと云つて休暇を承認するよう激しく抗議した。

このため午前七時頃、志水所長らは組合側の激しい抗議に抗し切れず、休暇を申請した組合員らが本当に病気であるかどうか疑いをもちながらも病気であれば仕方がないとして申請者全員について、やむなく当日の休暇を承認した。

(2) 折尾営業所関係

七月三日午前四時二〇分頃から病気を理由に当日の年次有給休暇の申請が提出されたが、松山営業所長は休暇申請者に対し当日は申立人が休暇闘争を予定しているので上司の指示により休暇を承認できないので他日に休暇をとるよう申し渡した。その後間もなく中島定樹執行委員長、小林博司書記長、田中康信、川原憲治各執行委員が組合員一四~一五名(後に三〇名位に増えた)を伴なつて来所し、松山営業所長および同人を応援するため出張して来ていた松田職員課長、杉本係長らに対し、何故休暇を承認しないのかと抗議した。松山所長らは局長通達により年次有給休暇は認められない、病気の者は医師の診断書を附して病気欠勤の手続をとるよう申し渡した。申立人側は従来から病気理由の年次有給休暇を承認しているのに当日に限つて異なつた取扱いをするのはおかしいではないか、あるいは他の営業所等では診断書がなくても休暇を承認しているではないかなどと云つて相当激しく抗議した。これに困惑した松山所長は、松田課長と相談の結果、病気の者については診断書がなくても休暇を承認することとし、午前七時過ぎ、この頃までに病気を理由に年次有給休暇を申請していた二四~二五名の者について、当人らが真実病気であるかどうか疑念をもちながらも、やむなく休暇を承認した。

この結果、当日は時間外勤務拒否による結果と相俟つて運行ダイヤ二二〇回中一〇五回のダイヤが欠行した。

(3) 小石営業所関係

七月二日午前九時頃、翌三日の休暇願(年次有給休暇一二名、事故欠勤四名、病気休暇一一名、生理休暇四名、組合欠勤三名)が提出されたので、鶴丸営業所長は局長の通達があつたので三日の日には休暇の承認はできないので他日に休暇をとるよう指示した。午前九時半頃菅坂弘之、脇岩男両執行委員が営業所事務室に入つて来て何故休暇を承認しないのかと抗議するとともに、組合員を呼び集めて四〇名位の組合員とともに鶴丸所長および大庭係長を取り囲んで抗議を続けた。午後一時頃まで両者の間で「休暇を認めよ」「認められない」との応酬が続き、午後一時半頃組合側の要請によつて高崎庶務課長が来所してからは同人と菅坂・脇ら組合員との間で同じく「休暇を承認せよ」「承認できない」との応酬が行なわれた。

この結果、鶴丸所長らは病気の者には休暇を認めるので医師の診断書を提出するよう指示した。しかし、菅坂・脇らは診断書料が要る、病気欠勤扱いにされると賃金カツトされる、あるいは当日は日曜日で診断書がとりにくいなどと云つて鶴丸所長らの指示を受け容れず、休暇申請をそのまゝ認めるよう要求した。このような応酬があつて午後三時に至り、菅坂・脇および組合員等の抗議に困惑した鶴丸所長らは不本意ながらも病気の者には診断書がなくても休暇を承認することとし、結局、申請者全員についてやむなく休暇を承認した。この結果、七月三日は申立人の時間外勤務拒否による結果を含めて運行ダイヤ三七一・五回のうち一三九回のダイヤが欠行した。

(4) 整備課関係

A 七月一日、午後四時から五時にかけて一五名の整備課員が整備課の早稲田係長を通じて七月三日の年次有給休暇の申請をした。このことを早稲田係長から報告を受けた石田整備課長は、翌二日の昼頃、休暇申請者にたいし電報で業務に支障があるので休暇は認められない旨通知した。

B 七月三日、午前四時三〇分頃、整備課事務所で勤務のため待機していた石田整備課長のところへ、別城登、丸山靖雄両執行委員と山本和夫中央委員を先頭に二六~二七名の組合員がやつて来て休暇不承認について抗議した。石田課長は三日の休暇は業務に支障があるため認められないので他日に休暇をとるよう話したが、組合員らはこれに承服せず、午前八時頃には人員も五〇~六〇人に増え、大声でわめくなど相当に激しい抗議を行なつた。その際、山本和夫中央委員は、興奮のあまり、石田課長の机の上にあつた木製の補職名札を手にして二回程机の上を激しく叩き机上の板ガラスを破損した。

(5) 振替勤務に関しての紛争

小石営業所においては、ワンマン甲番(五勤務)の勤務割を六人の運転手で編成していたが、各運転手について四週間に一回の繰上げ勤務が行なわれていたため、四週間で各運転手について一日づつ合計して六日の日について休日予定者が二人となる日が生じていた。このような日は、通常の場合においては休日予定者のうちの一人による休日勤務若しくは当日勤務の運転手による時間外勤務(連勤)により勤務が消化されていた。

七月二日、午後二時すぎ、鶴丸小石営業所長は翌三日の勤務編成に当つて同日の休日予定者が二人であるためワンマン五番勤務の乗務員が欠員となることを知つた。申立人が七月三日について三六協定の締結を拒否していたことにより、ワンマン五番勤務の乗務員不足を補なうため休日勤務若しくは時間外勤務を命ずることができなかつたため鶴丸所長は、三日が休日の予定となつていた申立外北九州市交通局新労働組合所属の渡辺運転手に就業規程第五二条にもとづき休日振替による出勤を依頼しその承諾を得て、三日の勤務表を編成した。

七月三日、午前四時四〇分頃、菅坂弘之、脇岩男両執行委員が営業所に来て、申立人が超勤拒否闘争として三六協定の締結を拒否しているときであるので渡辺の振替勤務を取消すよう要求した。鶴丸所長がこれを拒否したところ、菅坂、脇は一時は約四〇名を数える多数の組合員とともに、鶴丸所長および管理職応援のため来所していた高崎庶務課長にたいし渡辺の振替勤務の取消しを要求して抗議を繰返した。鶴丸所長らは渡辺の勤務は休日の振替によるもので休日出勤ではないので三六協定の有無にはかかわりのない旨反論したが、午前八時頃に至つて、菅坂、脇らの抗議に抗しきれなくなり渡辺の振替勤務を取消した。このため当日のワンマン五番勤務のダイヤが欠行した。

(6) 管理職による運行に関しての紛争

A 七月三日午後二時頃、石川自動車課主査は、当日の二島営業所の午後勤務の多数が要員不足となつていたため、ダイヤの欠行を防ぐため同営業所の運行管理代務者と管理職による乗務について打合わせをしていたところ、別城登執行委員が来て、管理職によるバス運行は組合の指令にもとづき阻止すると云つた。石川主査はこれにより威圧を感じ、打合わせを続けることはできないと判断し運行管理代務者との打合わせを中止した。

B 七月三日、矢野満敏副執行委員長は若松渡場案内所で乗客にたいし今次の闘争とダイヤの欠行について理解を求めていたが、午後五時三〇分頃、自動車課長から自づから乗務してダイヤの確保に努めるよう命令されていた志水二島営業所長が若松渡場始発のダイヤを運行すべく同所にバスを回送して来た。発着所に車を停めたところへ矢野がやつて来て、車の窓越しに志水所長に対して、組合員が議会行動から帰つて相当に興奮しているのでバスを運行すると問題になるとの趣旨のことを云つた。これを聞いて志水所長は運行を断念して再びバスを二島営業所へ回送した。

七、懲戒処分の発令

被申立人は、昭和四二年八月二日付をもつて、申立人執行委員長中島定樹、執行委員菅坂弘之、同別城登に対し停職六カ月、副執行委員長矢野満敏、同山田加寿彦、書記長小林博司、執行委員脇岩男、同山田洸義に対し停職三カ月、執行委員丸山靖雄、同田中康信、同川原憲治に対し停職一カ月、執行委員末次五郎に対し戒告、さらに中央委員山本和夫については停職一カ月の懲戒処分を発令した。

被申立人の主張する懲戒処分の理由は第一波実力行使として行なわれた超勤拒否闘争、第二波実力行使として行なわれた超勤拒否ならびに完全点検闘争、第三波実力行使としてなされた超勤拒否ならびに休暇闘争について中島定樹が申立人の執行委員長としてこれを指導したこと、中島定樹、山本和夫を除くその他の一一名が申立人の役員もしくは執行委員としてこれに関与したことは地方公営企業労働関係法第一一条の禁止規定に触れるものであるとし、さらにこれに加うるに、中島定樹については七月三日折尾営業所において休暇闘争を煽動した行為、矢野満敏については七月三日若松渡場案内所において管理職が欠行ダイヤの代りに自分で運行しようとしたのに対しこれを阻止した行為、山田加寿彦については七月一日二島営業所において完全点検闘争を実行した行為、小林博司については七月三日折尾営業所において休暇闘争を煽動した行為、菅坂弘之については六月二一日小石営業所において外部からのデイーラー整備員の入構を阻止した行為、六月二七日同営業所にて完全点検闘争を実施した行為、七月一日同営業所で同じく点検闘争を実施した行為、七月二日同営業所で休暇闘争を煽動した行為、七月三日同営業所にて代替出勤者の代替につきこれを阻止した行為、別城登については六月二一日二島営業所においてデイーラー整備員の入構を阻止した行為、七月一日同営業所で点検闘争を実施した行為、七月一日より二日にかけ同営業所において休暇闘争を煽動した行為、七月三日同営業所で休暇闘争を煽動した行為、七月三日同営業所において管理職によるダイヤの運行を阻止した行為、脇岩男については六月二七日小石営業所において管理職が代替の車を運行して来たのに対し車のキーを取上げ、その運行を阻止した行為、同日同営業所において点検闘争を実施した行為、七月一日同営業所において点検闘争を実施した行為、七月二日同営業所において休暇闘争を煽動した行為、七月三日同営業所において代替勤務につきこれを阻止した行為、山田洸義については七月一日二島営業所において点検闘争を実施した行為、丸山靖雄については六月二一日二島営業所においてデイーラー整備員の入構を阻止した行為、六月二二日整備課事務所において組合が無断で貼つたビラを管理職が撤去しようとしたのを阻止し、更に無断でビラを貼つた行為、田中康信については、六月二一日折尾営業所においてデイーラー整備員の入構を阻止した行為、六月二二日同営業所にて管理職がダイヤの車を運行しようとしたのを阻止した行為、同日折尾駅前案内所において申立人が無断で貼つたビラを管理職が撤去しようとしたのに対し、これを阻止した行為、七月三日折尾営業所において休暇闘争を煽動した行為、川原憲治については六月二二日折尾駅前案内所において申立人が無断で貼つたビラを管理職が撤去しようとしたのにたいし、これを阻止した行為、同日折尾営業所において管理職がダイヤの車を運転しようとしたのを阻止した行為、七月三日折尾営業所において休暇闘争を煽動した行為についてそれぞれこれを違法行為として地方公務員法第二九条第一項を適用し、山本和夫については七月二日二島営業所において休暇闘争を煽動した行為、七月三日整備課事務所において管理職の机のガラスを破損した行為、同日二島庁舎において無断で組合のアジビラを貼つた行為、同年七月一九日整備課において管理職がデイーラーに修理を外注することを阻止した行為をいずれも地方公務員法第二九条第一項に該当するとしている。

第二判断および法律上の根拠

一、第一波ないし第三波の実力行使として行なわれた超勤拒否闘争、完全点検闘争、休暇闘争が地方公営企業労働関係法(以下「地公労法」という。)第一一条の禁止行為に該当するかどうかについて次のとおり判断する。

まず、超勤拒否闘争についていえば、さきに認定した事実のとおり、当時いわゆる三六協定は本件紛争の数カ月以前に失効してしまい、それから後は申立人が紛争の見通しとも関連して一括して長期にわたる協定の締結を避けその日その日の時間外勤務について一日一日の三六協定を締結更新しながらこの紛争の時点に至つたものである。そして、前に認定したとおり、組合員の全員投票においてスト権の集約を行ない、さらに戦術委員会において第一波ないし第二波の闘争内容が具体化し、第一波、第二波の超勤拒否闘争に突入するに当つて三六協定の締結ないし更新を拒否したものである。その拒否の間もちろん時間外勤務は行なわれなかつた。三六協定締結の拒否が時間外勤務自体の労働条件に関する労使の意見不一致のため行なわれたような場合は協定を締結するかどうかはもつぱら労働組合ないし労働者の自由な意思により決定し得るところであつて、その拒否をしたからと云つて、これを違法な行為とみることができないことは云うまでもないところである。しかしながら、本件の場合のように、そのような経緯や意思に基くものではなくして、労使間の他の紛争について要求を貫徹する手段として三六協定の締結を拒否しまたはその更新を拒み時間外勤務を拒否する行為は、地公労法第一一条の規定に触れるものであるかどうかの問題は後で説明するとして、ともかく一種の同盟罷業に相当すると理解せざるを得ない。

つぎに第二波実力行使における点検闘争について云えば、自動車の運行前における点検をことさらに綿密に行ない、かねて定められている二五項目に亘る点検のほかにさまで実際の運行上支障のないと認められる微細な点についてまで遂一その点検を実施したものであつて、これは、結局、労使間の紛争に関し要求を貫徹する手段として自動車の運行を妨げる趣旨のもとに行なわれたものであつたと考えられるので、地公労法第一一条に触れるかどうかは別として一種の怠業行為であると云わなければならない。

つぎに休暇闘争について云えば、本件の場合前に認定した事実のとおり七月三日の一日に有給休暇ないし病気休暇等の名目で合計一五〇人近くに及ぶ組合員が一斉に休暇を行なつて市議会に請願行動を起したものであり、単なる通常の有給休暇、病気休暇とは異なるもので、このような休暇を要求貫徹の手段としてこれを行なつたと認められるのであるから、この休暇闘争もまた一種の同盟罷業行為であると判断せざるを得ない。

申立人はバスの運行という本件の事業内容は他の一般民間企業と実質的に何らの区別もなく公共性の乏しい事業であり、また本件の闘争によつて業務の正常な運営を阻害したことがきわめて軽微であり地域市民の生活に重大な支障を来たしたものではないのみならず、しかも本件の闘争は被申立人側の不当な措置にたいして申立人がやむなく行なつた闘争であるから違法性がないと主張する。

なるほど、地公労法第一一条における争議行為の禁止規定については一切の争議行為を一律にかつ絶対的に禁止しているものと解釈することは正当でない。その業務内容の公共性の強弱とか争議行為の縁由、目的、態様、業務停廃の影響の大小などを勘案し、この禁止によつて保護しようとする法益との比較衡量のもとに憲法の保障する労働基本権との調和を考慮してこの規定を解釈すべきである。

本件の事業内容は北九州市若松区内およびその周辺を主とするバスの運行とそれに若干の軌道事業を含むものである。一般民間企業の行なう営利事業と異なつて地方公共団体が地域住民の交通の便を図ることを目的として行なう事業であるからそれ相当の公共性を否定することはできないけれども、また反面公共性の強いものとみることもできない。本件闘争のために生じた業務停廃の影響をみるに、第一波の超勤拒否によつては一日について一五勤務程度のバスの欠行を生じたものであり、第二波の場合は超勤拒否闘争と完全点検闘争との結果をあわせて三・九%ないし八・六%のダイヤの欠行を生じたことが認められる。したがつて、この第一波および第二波の実力行使については業務停廃の影響もさまで大きなものではなく、地域住民の生活に重大な影響を来たしたものとは考えられない。しかも申立人はこの第一波および第二波の闘争に当つては、前に認定したとおりとくに北九州市立養護学校スクールバス、貸切バス、福岡市行き定期便等重要なものについては闘争を行なわずこれを除外するなどその影響については慎重な考慮を払つたことが認められる。

また本件闘争に至つた事情をみるに、前に認定したとおり、当初の一二年計画の場合においては被申立人も申立人と充分に事前の折渉を重ね事前協議制に関する協定ならびに確認書の締結をしたのであるが、昭和四二年四月に至つて被申立人が自治省の指示にもとづき九年計画に変更することになつた後は、その計画の立案、自治省との折渉に忙殺されたためとは云え、六月上旬までこの内容に関する労使間の折渉は全く省みられず、同年六月七、八日に久しく断絶した後のはじめての労使折渉において、突如として、従来の一二年計画を変更し申立人側にとつてきわめてきびしい内容の9年計画を提示し、かつ六月市議会にこの案を提案する旨通告したものである。申立人はこれに驚き、労使の意見の一致をみないまゝ市議会に提案することは事前協議制に関する協定の禁ずるところであるから市議会に提案する前に労使の交渉を継続してほしいと要求したのにかかわらず、被申立人はこれを無視して同月一五日市議会に提案した。また、当労働委員会のあつせん員が同年六月一九日に事前協議制に関する協定ならびに確認書を無視するが如き態度は極めて遺憾であるから労使がさらに協議を重ねるようにとの勧告をしたにもかかわらず、被申立人はこの勧告を受け容れなかつた。

被申立人は経営主体としての能力を充分に具備していたとは云い難く、地方公営企業法に基づく企業の再建に当つて諸々の制約を受けていたことが認められる。しかしながら、一二年計画の策定以後の労使間の経緯から考えれば、申立人が労働条件の変更にかかわる問題として団体交渉による解決に期待をもつていたことは充分に首肯できるところであり、これに対する被申立人の態度に鑑み、申立人は実力行使の方途に出ずるよりほかに途を失ない、本件の実力行使に突入したものと認められる。

このような諸点を総合して判断すれば、叙上の第一波、第二波の超勤拒否闘争、完全点検闘争は地公労法第一一条によつて禁止される争議行為であると認めることはできない。

しかしながら、第三波の実力行使をみるに、この場合は申立人の組合員五七三名のうち公休者六七名を除き一五〇名の多数組合員が一斉に休暇を請求して就労をしなかつたもので、その結果は超勤拒否と併せて平常のダイヤの三六・七九%が欠行となつたのである。このことは定期旅客運送事業においては、一日の行為とはいえ、代替輸送、欠行時間、欠行路線等について特段の事情が認められないかぎり、当該地域住民の生活に重大な影響を及ぼしたものと推定される。

しかも、その手段、方法についてみるに、折尾、小石、二島の各営業所などにおいて多数の組合員がそれぞれ営業所長ら管理職の者をとり囲み休暇の許可を迫り、容易にこれを肯じなかつた所長らに対し激しく抗議し、所長らをしてこれを承諾するのやむなきに至らせたことなど相当性を欠く点が多かつたと認められる。してみれば、七月一日頃戦術委員会において決定し同月三日実施された超勤拒否闘争と休暇闘争の第三波実力行使はやはり地公労法第一一条において禁止された争議行為であると判断される。

二、被処分者らが第三波の実行力使に関して責任を有するかどうかについては次のとおり判断する。

被申立人の主張する懲戒処分の理由によると、山本和夫を除く被処分者ら一二名はこの争議行為に関与し、またこれを煽動し指導したものであるからその点において責任を負担しなければならないというのである。案ずるに、被処分者のうち中島定樹は申立人の執行委員長として最高の地位にあり、また矢野満敏、山田加寿彦はいずれも副執行委員長として中島に次ぐ責任の地位におり、小林博司は書記長として申立人組合の事務に専従するものであつて、その他菅坂弘之、別城登、脇岩男、田中康信、川原憲治の五名はいずれも執行委員であつたこと、本件第三波の闘争が七月一日頃の戦術委員会において一切の内容を決定され実施の運びに至つていること、さらにまた、すでに認定した事実のとおり中島定樹、小林博司、田中康信、川原憲治がいずれも折尾営業所において同営業所長らに対し多数組合員の休暇請求書を提出してその許可を迫り、容易にこれを肯じなかつた同所長らに対し多数組合員とともにこれをとり囲み激しく抗議して同所長らをしてやむなくこれを承諾するに至らしめ、また菅坂弘之、脇岩男の両名が同月二日小石営業所において同営業所長らに対し同様の行為をなし、さらに別城登が同月一日および二日二島営業所において同営業所長に対し同様の行為を為し、それらの結果いずれも多数組合員の休暇の実行に至つた点などの諸事情を総合するときは、上記中島定樹、矢野満敏、山田加寿彦、小林博司、菅坂弘之、別城登、脇岩男、田中康信、川原憲治の九名はいずれも主としてこの第三波の争議行為を相ともに企画実施したものと判断される。したがつて、上記九名に対しては七月三日の第三波の争議行為については地公労法第一一条第一項の違法行為があつたものとしてその点に関する懲戒の処分を免れることはできないと云わねばならない。

被処分者のうち山田洸義、丸山靖雄、末次五郎の三名はいずれも申立人の執行委員であるけれども。この第三波の争議行為について自づからこれを企画し実行したことに関する何らの具体的行動もなくその疎明もない。なるほど、執行委員は本件争議行為が決定された七月一日頃の戦術委員会のメンバーであつたかも知れないけれども、それも明白な疎明はなく、仮りにそのメンバーであつたとしても同人らがこの会議に出席し如何ように決定に参画したかの事実は全く明らかでない。したがつて、同人らがただ単に執行委員であつたという一事をもつて本件の第三波の争議行為に実行者または共謀者などとしての責任を認めることは困難である。

三、つぎに第一波ないし第三波の実力行使中における労使の紛争事件であつて本件懲戒処分の理由にとりあげられているものについてそれぞれ次のとおり判断する。

A 菅坂弘之、脇岩男両名が六月二七日小石営業所において点検闘争を実施したという事実については、被申立人はこれを認めるに足る疎明を提出しなかつたのみならず、仮りにその事実があつたとしても叙上のとおりこの第二波の点検闘争は違法な争議行為と認められない。

B 山田加寿彦、別城登、山田洸義の三名が七月一日二島営業所において点検闘争を実行したという点についてはこれを認め得るけれども、既に判断したとおりこの行為は違法な争議行為とは認められない。

C 菅坂弘之、脇岩男両名が七月一日小石営業所で点検闘争を実施したという事実は明白であるけれども、前同様違法な争議行為とは認められない。

D 別城登、丸山靖雄の両名が六月二一日二島営業所においてふそう自動車のデイーラー整備員二名に対しその入構を阻止したという事実については前に認定したとおりの事実関係であり、労働組合の正当なる行為の範囲を逸脱したものとは認められない。とくにその行為の内容が暴力その他不法なものがなく、石田整備課長も両名の要求を容れてその整備員の使用を取り止めたものと認められる。

E 田中康信が六月二一日折尾営業所においていすゞ自動車から来た整備員田中勇内の整備作業を阻止したという点については前に認定した事実のとおりで、結局田中康信は田中勇内に対して申立人組合への協力を要請しまた石田整備課長に対し抗議を申し入れたのみのことであつて、特に暴行脅迫その他不正の行為をもつて作業を阻止したという事実が認められないので、この田中康信の行為は労働組合の正当な行為の範囲を出でたものとは考えられない。

F 菅坂弘之が六月二一日小石営業所においてデイーラー整備員の入構を阻止したという事実については既に認定した事実のとおりで、菅坂は石田整備課長らに対し抗議をし同課長もこれを了承したのであつて、とくに暴行その他の不正行為が伴なつた事実はなく、菅坂の上記行為は違法不当のものとは認められない。

G 田中康信、川原憲治は六月二二日折尾駅前監督派出所において高崎庶務課長に抗議し同課長が庁舎に貼られた申立人の教宣ビラを撤去しようとしたのを阻止したという事実については前に認定したとおりの事実で、とくに暴行その他不正の手断に出でたと認められることがなく、抗議の言葉つきがかなり激しいものであつたことはうかがわれるけれどもこの程度をもつてただちに不正不当のものであるとは認め難く、結局両名の行為は労働組合の正当な行為の範囲を逸脱したものとは判断できない。

H 丸山靖雄が同日整備課事務所において石田整備課長に抗議し同課長が庁舎に無断で貼られた申立人の教宣ビラを撤去するのを阻止しかつ同課長の制止を無視し勝手に約五〇~六〇枚の教宣ビラを庁舎の窓ガラスにセロテープで貼り付けたという事実については上に認定したとおりの内容で、抗議または撤去の阻止に当りとくに違法と認められるような不正手段を用いたとの疎明はなく、さらに五〇~六〇枚のビラを貼つた行為についてはやゝ当を失するかの感もあるけれども、これがために被申立人の事務に支障を来たしたり庁舎を汚損したり著しく外観を損つたというような事実関係も疎明上認められないので、これまた違法行為であると断ずるわけにはいかない。

I 田中康信、川原憲治の両名が六月二二日折尾営業所において松山営業所長に対し同所長が自づからバスの運転をしようとするのを危険であると称して反対し組合員一〇数名とともにそのバスの前面に立ちふさがつて運行を阻止したという事実については前に認定したとおりの内容で、長らく運転業務から離れていた同営業所長が営業としてバスを運転することが危険防止上からも必らずしも歓迎すべきことでないことは云うまでもなく、田中ら両名がこれを述べて同所長を思いとどまらせようとしたこともあながち不当ではないと思われる。

バスの前面に立ちふさがつたということもこの場合必らずしも違法の行為とは認め難い。

J 菅坂弘之、脇岩男の両名が六月二七日小石営業所において志水所長がバス用自動車を操縦して同営業所に到着したことに対し抗議し、脇岩男はその車の鍵を勝手にとりはずし暫時自づからこれを保管し同所長がそのバスを使用することを妨害したという事実については前に認定したとおりで、抗議は口頭上述べただけで何ら不当のことはなく、鍵についても同所長がやがて車を運転しようとしたときにはこれを返しているので少しの実害も発生しておらず、両名の行為は違法であるとは認め難い。

K 菅坂弘之、脇岩男が七月三日小石営業所において鶴丸所長に対し同所長が公休者の代替勤務として第二組合の渡辺運転手を稼働させようとしたことにつきこれを阻止妨害したという事実については、前に認定したとおりで、ただそのようなことをしないよう説得を試みたのみに過ぎないので、労働組合の正当な行為の範囲を出でたものとは認め難い。

L 別城登が七月三日に二島営業所で石川主査に対し管理職として代替運行をしようとするのを阻止したという事実については、これまた前に認定のとおり、暴行その他の不法の手段を用いた事実はなく説得の範囲を出でないので労働組合の正当な行為の範囲を逸脱したものとは認められない。

M 矢野満敏が七月三日若松渡場案内所において志水所長が自づからバスを運行しようとするのに対しこれを阻止したという事実については既に認定したとおりで、矢野のその際の言動の内容が違法行為と認められる程度のものではなかつたと考えられる。

四、山本和夫は執行委員ではないので、同人の懲戒処分の理由として掲げられた各点について次のとおり判断する。

A 山本和夫が七月三日整備課事務所において石田課長の机の上にあつた木製名札をもつて机上を激しく叩き机の板ガラスを破損した事実は前に認定したとおりで、地方公務員法第二九条の懲戒を受くべき行為に該当するものと判断する。

B 山本和夫が七月一日二島営業所において志水営業所長に対し組合員約二〇名とともに休暇の承認を迫りこれに抗議し、組合員の休暇闘争を煽動したという点については、ただ同人が休暇の承認を要求した事実は認めることができるけれども、それ以外に違法な行為があつたという具体的事実は認められない。

C そのほか懲戒処分の理由として被申立人は山本和夫が七月三日二島営業所で無断で教宣ビラを貼つたこと、同月一九日整備課において外注による車の修理を行なおうとした管理職に対しこれを妨害したこと、同日二島営業所において無断でビラを貼つたことの三点をも掲げているが、これらを認めるに足る何らの疎明もない。

五、叙上判断したところを総合すれば、中島定樹、矢野満敏、山田加寿彦、小林博司、菅坂弘之、別城登、脇岩男、田中康信、川原憲治の九名については七月三日の第三波の争議行為を主として企画し実行した点において地公労法第一一条第一項の違法行為があつたものと判断されるので、地方公務員法により同人らを何らかの懲戒処分に付することはその理由があるものと認められる。しかしながら、同人らに対する本件懲戒処分にはこの第三波の争議行為とは別に正当な組合活動と認められる第一波、第二波の超勤拒否闘争、完全点検闘争をも懲戒処分の理由として掲げられており、そのほか矢野満敏、菅坂弘之、別城登、脇岩男、田中康信、川原憲治の六名については、前に掲げた判断の三において説明したとおり、同人らの正当な種々の組合活動までもがそれぞれ本件停職処分の理由とされている。

また、山本和夫については、同人が七月三日整備課事務所において石田課長の机上にあつた板ガラスを破損した点については地方公務員法第二九条の懲戒処分を受くべき行為に該当すると判断されるけれども、同人に対しては同人の行為があつたと認定できないもののほか、七月一日二島営業所における同人の必らずしも違法とは云えない組合活動までもこれを懲戒の理由として掲げている。換言すれば、上記一〇名に対する停職処分の理由のうちには正当な組合活動が含まれており、しかもそのことが同人らに対する本件懲戒処分の要否とその程度とに影響がなかつたものとは云えない。

丸山靖雄、山田洸義の二名については懲戒処分に値する行為が認められず、被申立人が懲戒処分の理由として掲げている同人らの組合活動は違法ではないので、同人らに対する本件の懲戒処分は結局において同人らの正当な組合活動を理由としたものである。また末次五郎に対する懲戒処分は事実ではない事柄を理由としたものである。

被申立人の財政再建計画に対しこれに反対し、人員の削減、労働条件の低下を阻止しようとしてはげしく抵抗していた申立人の三役、執行委員、中央委員である被処分者らを被申立人が嫌悪していたことは当時の前後の事情より明らかに推認し得るので、本件懲戒処分の上記中島定樹ら一〇名に対する行き過ぎと丸山靖雄ら三名に対する理由なき懲戒処分は何れも正当なる組合活動を理由とする不利益処分であり、またはそのようなものを含むものであるから、違法な第三波の争議行為などについてそのことに責任を有する者をあらためて懲戒処分に付するや否やはともかく、本件懲戒処分はこれを取消さなければならない。

よつて、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条の規定に則り、主文のとおり命令する。

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